『味いちもんめ』の伊橋がレジェンド作家たちに聞く! 漫画家の「食」にまつわる物語

アニメ・マンガ

2017/12/12

『味いちもんめ 食べて・描く! 漫画家食紀行 1』(倉田よしみ:著、あべ善太:企画・原案/小学館)

 主人公・伊橋悟が料理人として成長する姿を描いた漫画『味いちもんめ』は、「独立編」や「にっぽん食紀行」などのシリーズを重ねて続く人気作品である。もちろんフィクションなのだが、2017年12月現在『ビッグコミックスペリオール』で連載中の「番外編」は少し毛色が違う。なんと実在する漫画家たちに、伊橋と彼の友人・ボンさんが「食」の話を聞くという取材漫画なのだ。そしてこの度、そのエピソードが『味いちもんめ 食べて・描く! 漫画家食紀行 1』(倉田よしみ:著、あべ善太:企画・原案/小学館)として一冊にまとまり、刊行された。

 先に「実在する漫画家たちに話を聞く」と触れたが、すごいのはその顔ぶれ。「食」漫画の元祖とも呼べる「ビッグ錠」氏や『巨人の星』など多くのヒット作を持つ「川崎のぼる」氏など、まさしくレジェンド級の作家が登場するのだ。そんな彼らが「食」についての思い出を語るとなれば、興味をかきたてられるのも無理からぬことであろう。

 本書でトップバッターに来るのは、やはり「元祖」のビッグ錠氏。その作品『包丁人味平』では、頭を残して骨になった魚が生簀を泳ぐシーンが描かれるが、これは実際に近い話なのだという。ホノルルで行なわれたというショーでは半身の魚だったらしいが、それでは絵にならないので骨になったのだとか。そして伊橋から「一番美味しかった物」を尋ねられた氏は、多くの品を挙げるも決めかねる様子。その理由は子供の頃、戦争を体験していたからだ。終戦前に空襲にも遭ったと語り、戦争が終わったと知り安堵したという。だから戦後まもなく物資もない時代に食べた粗末な食事ですらも、すべてが「美味しかった」と感じたのだ。その感動が、氏の著作に大いに活かされていると考えれば納得なのである。

 本書に掲載されている作家の名に馴染みのない人もいると思うが、おそらく「谷口ジロー」氏ならよく知られているだろう。氏の代表作『孤独のグルメ』は、最近でも実写作品として地上波放送されていたからだ。意外だったのは『孤独のグルメ』に関するエピソード。作品には実際に存在する店舗が登場するのだが、谷口氏自身はそれほど取材をしていないと語る。これは原作者の久住昌之氏がしっかり取材しているから可能なのだ。ゆえに谷口氏はいかに美味しそうに見せるかを考え、主人公の仕草や反応で表現するように意識したという。ちなみに自身はそれほど「食」に執着はないようで、伊橋らと共に弁当を買いに行くシーンも描かれている。なお谷口氏は2017年2月11日に逝去されている。謹んでご冥福をお祈りしたい。

 少し毛色が違うのが「小山ゆう」氏。『がんばれ元気』や『あずみ』などのヒット作で知られる作家だが、そもそも漫画家など目指してなかったのだという。高校時代の記憶がほとんどない話など、およそ漫画家らしからぬエピソードが語られた後、伊橋が「食」の話を切り出すと「外食だったけど、食べに行った店の記憶がほとんどないんだよ」というオチ。なるほど、小山氏の話を漫画にするのはさぞかしホネが折れたことであろう。

 レジェンドと呼ばれる漫画家に共通するのは、やはり駆け出しの頃は相当な苦労をしたということ。昔は漫画を「低俗」と蔑む向きが強く、最初から順風満帆に漫画稼業を始められた人などほとんどいない。食うや食わずやの生活をしていたからこそ「何でも美味しく食べる」という作家が多いのだろう。現在は食事情からして全然違うが、漫画稼業で行き詰まっている人は、レジェンドたちがなぜ頑張ってこられたか、本書から感じられる部分があるのではないだろうか。

文=木谷誠