誰もが知りたい「ヒットの法則」はどこにある? 東大教授が語るマーケティングの実態とは

ビジネス

2017/12/15

『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(阿部 誠/KADOKAWA)

 ビジネスにおけるマーケティングにはさまざまな因子がからむことから、何が正解で何が不正解なのか、といったことは一概には言えません。そのため、たとえばがん治療に関する書籍のように、多くの著者が独自の見解を述べたものが多数出回っているのが現状です。

 私は米国イリノイ大学のビジネススクールで6年間、東京大学で20年間、学部と大学院でマーケティングの教壇に立ってきました。その経験から申し上げますが、ちまたに溢れる「ヒットの法則――これをやればあなたも成功する」などと謳うビジネス書に書かれているような法則は存在しません。

 本の中でどんなに素晴らしい事例が並べられていたとしても、ビジネスにおける多くの事例やケースは、単なる「相関関係」をあらわしたものにすぎないのです。その事例を「因果関係」と早とちりしてはいけません。「条件がAのとき、その結果は必ずBとなる」というようには言えないのです。

 ただ、確約がないからといって、マーケティングをあきらめるのは早急です。マーケティングに客観的な視点を取り込むことによって、成功の「確率」を高めることはできるからです。継続的にヒット商品を生み出す確率を高めるために重要なことは、客観的かつシステマティックに顧客から継続的に学び続け、PDCAサイクルを回していくことです。計画を立て、それに基づき実行した結果を評価、改善を加えたうえで、再び計画を立て実行する。これを繰り返していくということです。大学で教えられるマーケティング理論のキモはここにあります。

 マーケティング理論を学ぶ利点は、組織としてマーケティング・マネジメント・プロセスを共有するために必要な言語を共有できることです。それによって、系統的に顧客から学ぶ仕組みづくりを考えることが可能になり、データと論理にもとづいた意思決定を繰り返すことによって、意思決定の精度を向上させることができるのです。

 実務のマーケティングにはサイエンス(客観的、理論的な面)とアート(クリエイティビティーな面)の両方の側面が必要です。サイエンスの部分は大学で学んだり、マーケティング理論に関する書籍を読んだりすることで習得することが出来ます。一方、アートの側面を習得するためには、実際のビジネスを経験しながら個人で身につけていく必要があります。マーケティング理論の本を読んで内容が頭に入っていても、それを現場特有のマーケティング環境に適用できるように修正、改善、拡張するには、実際に手を泥に染めて成功や失敗の体験を積むしかありません。その際、理論と論理的思考を意識することで、トライアル・アンド・エラーの効率は格段に高まるはずです。まさにサイエンスとアートの両面が必要な所以です。

 ちなみに、トップビジネススクールの多くの教員は、博士号修得後すぐに教職につくため、企業での職務経験がありません。実際、私の恩師であるマサチューセッツ工科大学の教授は「研究者(=教員)は純粋培養、温室栽培のほうがいい」と言っていました。理論上の仮定が現場で完全に成立することはまれなので、それらの要因を1つひとつ細かく心配していると、科学的思考がさまたげられる、という意味です。さらに実務を知りすぎると、成功の因果関係を客観的(科学的)根拠ではなく、経験や相関にもとづいて判断してしまう危険性もあげられます。実際に、「経営の神様」と呼ばれるような経営者ですらも、環境の変化に対処できず、自身の成功体験に固執した時代錯誤的な意思決定に転じてしまう例は多々見られます。

 企業では実際の高度な分析は、コンサルティング会社やリサーチ会社に外注する場合が多いでしょう。ただ、マーケティングとはいかなるものかがわかってさえいれば、どのような分析や手法を外注するべきか、それらが正しく使われているのか、結果の解釈が妥当か、などを判断する際の手助けになると思います。