名前負けのペンギン、動物界の絶倫王ニホンアナグマ…。必死に生き抜く動物のリアルな生き方

エンタメ

公開日:2017/12/15

『それでも美しい動物たち(サイエンス・アイ新書)』(福田幸広/ SBクリエイティブ)

 疲れた体と心を癒すアイテムとして、動物写真は鉄板ですよね。ふわふわの毛、愛くるしい表情を眺めているだけで、やさぐれた気持ちもだいぶほぐれます。ですが、「最近それだけじゃ全然効かないの…」なんていう、どっぷりお疲れモードの方には、『それでも美しい動物たち(サイエンス・アイ新書)』(福田幸広/ SBクリエイティブ)をおすすめします。こちら、ただの癒し本じゃないのです。

■完全なる「名前負け」、でも気持ちは負けない!

 目の上の黄色い飾り羽が特徴的なイワトビペンギン。普通の動物写真集なら、カッコよく岩を飛び跳ねるシーンを想像しますが…。本書には岩の割れ目に落下し、どこかきまり悪そうなイワトビペンギンの姿。と…トベてない!

当の本人たちは大真面目なのですが、「あなた、本当にイワトビペンギンですか?」と思わず笑ってしまいます。

 観察していた著者によると、ほかにも多くのペンギンたちが、この割れ目トラップにかかったとか。ですが、ペンギン界一といわれるほど気の強いイワトビペンギンは、何度落ちてもめげず、やり遂げるまで頑張るのだそう。そうこうしているうちに、割れ目の場所を学習して遠回りする強者も。たとえ失敗しても、「名前負け」しちゃっても、大事なのは気持ちで負けないこと! なんですね。

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■動物界の絶倫クイーン!?

 クマと名は付けど、イタチの仲間だというニホンアナグマ。巣穴の前に一頭たたずむ写真は、「オスがメスを誘う歌を歌っているところ」。春に出産後すぐに発情期を迎えるという、珍しい習性を持つニホンアナグマのメスは、せっかくの婚活時期も子育てに忙しく、巣を離れられない状況なのです。そこでメスたちが生み出した対策とは、こうして歌いながら巣を訪ねてくるオス「全員」と交尾しちゃうこと! しかも、オス1頭につき、2日間かけて何度も。さらにこれが1週間の発情期間に渡り続くというから…想像を絶する肉食系女子ぶり。

 私が思うところ、アナグマはオスもメスも動物界の絶倫王です。

 もし「婚活が上手くいかない」とお悩みの方がいらっしゃったら、一度ニホンアナグマの「探さない、待つの」精神を真似てみては? 地球上に男は35億! もしかしたら上手くいくかもしれませんよ。とはいえ、来るものを拒まず受け入れる驚異の体力、肉食力が必要ですが(笑)。

■生き抜く姿は、どんな姿も美しい

 本書にはこのほかにも、普通の動物写真集にはない、動物たちを捉えた写真が多数掲載されています。年間200日以上、フィールドで過ごすという動物写真家の著者だからこそ語れる、リアルな生き方解説もとても魅力的です。

多くの文献に書かれている特徴だけでなく、時間をかけて見なければ見えてこない真の姿を写したいのです。

 

時には失敗したり、遊んだり、眠ったり、恋をしたり…。本書を読んでいると、遠い場所にいるはずの動物たちが、身近に、まるで人間のように思えてきます。

 過酷な環境の中でも、小さなしあわせや楽しみを見つけながら、必死に生き抜く動物たちの姿はやはり美しく、癒されながらも勇気付けられる1冊です。

文=吉田裕美