藤井聡太、ひふみん、羽生善治… 空前絶後のブームが到来した「将棋」のレビュー総復習

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公開日:2017/12/22

 2017年の将棋界には、まさに”飛車角”が台頭した。中学生ながら公式戦29連勝の記録を打ち立てた「藤井聡太」四段と、”ひふみん”の愛称が流行語にもなった「加藤一二三」九段。2人は、今年の顔とも言えるだろう。PONANZAが二連勝を飾った電王戦や永世七冠を達成した羽生善治棋聖などニュースやスターも目白押しで、来年以降もまだまだ続きそうな将棋ブーム。ここで、ダ・ヴィンチニュースで紹介した将棋に関する記事をまとめて紹介しよう。

■「弱点が見えない」天才・藤井聡太四段の“凄さ”

『天才 藤井聡太』(中村 徹、松本博文:著/文藝春秋)

 2017年、日本中を熱狂させた中学生棋士・藤井聡太四段。昨年の12月24日に史上最年少棋士としてプロデビューすると、そのまま無敗で勝ち続け、30年前に打ち立てられた28連勝を塗り替え、前人未到の29連勝を成し遂げた。

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 藤井四段の師匠である杉本昌隆七段による回顧録や、現在の将棋界をリードする羽生善治棋聖と渡辺明竜王をはじめ藤井四段と今後対峙することになる先輩棋士らによる藤井分析を収録したのが『天才 藤井聡太』(文藝春秋)だ。

 29連勝を達成した藤井四段。その後の戦績は23勝9敗(2017年12月11日時点)となっている。名人挑戦権を争う「A級順位戦」に所属する一流棋士相手には勝ち星を挙げられておらず、壁にぶち当たっているのだろうか。果たして、世間を熱狂させた天才少年はこの先どこまで進むのか。その行く末をさらに楽しむためにもおすすめの一冊である。

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「弱点が見えない」羽生棋聖 、渡辺竜王らの証言から見えた、天才・藤井聡太四段29連勝の“凄さ”

■羽生世代に風穴を開けた将棋界の貴公子「逆算のメソッド」とは?

『理想を現実にする力』(佐藤天彦/朝日新聞出版)

 将棋の世界に数あるタイトルの中でも最高峰と言われる「名人戦」。「名人」の座は、2003年から2015年までの13年もの間、羽生善治と、羽生と同世代の棋士森内俊之のどちらかしか獲得していない、まさに「羽生世代」の鉄壁の牙城だったのだが…。2016年ついに、当時28歳の若手棋士「佐藤天彦」が、羽生善治を破り名人の座を獲得した。

 そんな新世代の天才「佐藤天彦」による著書『理想を現実にする力』(朝日新書)。デビューも遅く、パッとしない時期も長かった佐藤がどのようにして名人に登りつめたのか、その心の持ち方が将棋を知らない人にも理解できるように書かれている。

 なお、佐藤天彦は今年2017年、稲葉陽八段の挑戦を退け、見事に2年連続の名人位獲得を達成した。将棋界に新たに吹く世代交代という風。果たして2018年、風はどのような時代を将棋界にもたらすのだろうか。

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羽生世代に風穴を開けた! 将棋界の貴公子・佐藤天彦の「逆算のメソッド」とは?

■難病と闘った”もう1人の天才”村山聖の壮絶な生涯

『聖の青春』(大崎善生/講談社)

 19年前の1998年、弱冠29歳の若さで亡くなった天才棋士・村山聖の生涯を描いた名著『聖の青春』(大崎善生/講談社)。100年に1人の天才と言われる羽生善治と「東の羽生、西の村山」と並び称されながら、名人への夢半ばで倒れたのが村山聖だ。難病と闘いながら将棋に全てを懸けた”もう1人の天才”村山聖の壮絶な生涯が、師弟愛・家族愛・ライバルたちとの友情を通して『聖の青春』には描かれている。将棋界のバイブル的な一冊とも呼ばれた本作は、第13回新潮学芸賞、第12回将棋ペンクラブ大賞を受賞。2016年には松山ケンイチ主演で実写映画化もされているため、そちらを目にされた方も多いのではないだろうか。世代交代という風が吹き荒れる将棋界。現代の若い天才たちと同様に、かつて将棋界を賑わせた”もう1人の天才”の壮絶な生涯に触れてみるのもおすすめだ。

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最高の感動作『聖の青春』! 村山聖が「この人となら何処までも行ける…」と信じていた羽生善治の大ベストセラー

■ひふみんの愛読書『福翁自伝』の面白さとは?

『新訂 福翁自伝』(福沢諭吉/岩波書店)

 近年の将棋界を盛り上げているのは、なにも若手棋士だけではない。2017年は、御年77歳、「ひふみん」こと加藤一二三九段もお茶の間で人気を集めた一年だった。日めくりカレンダーの発売、初冠番組の放映決定など、2017年の終わりにかけても、加藤九段の勢いはとどまることを知らない。

 『ダ・ヴィンチ』2018年1月号では、巻頭人気連載「あの人と本の話」で、加藤九段にこだわりのある一冊を選んで紹介いただいた。敬愛する福沢諭吉の自叙伝『福翁自伝』の中で、とくに好きなのは教育論だという加藤九段。加藤九段自身は14歳7カ月で史上初(当時)の中学生プロ棋士となったが、「必ずしも早く棋士になれば大成するというわけではない」と話す。

 そんな加藤九段の新刊『天才棋士 加藤一二三 挑み続ける人生(日本実業出版社)』も、63年にわたる棋士経験から導き出された勝負の哲学が詰まっており、生きるヒントをくれる一冊だ。

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ひふみんの愛読書は?「始めるのが早いだけが能じゃない。芸とはいかに成熟するかが勝負」

■少年の一手が国の運命を変える! 小説『天盆』

『天盆』(王城夕紀/中央公論新社)

 将棋に似た盤戯を中心に回る世界を描いた時代ファンタジー小説『天盆』(王城夕紀 /中央公論新社)も紹介しよう。舞台は、盤戯「天盆」の勝敗による人材登用制度が定着している「蓋」の国。人々は立身出世を目指し、その盤技の研鑽に励むが、長い間平民から征陣者は出ていない。ろくに仕事もせず、天盆にのめり込んでいる貧しい平民・少勇は、ある日、橋の下に捨てられていた赤子を拾う。凡天と名付けられたその子は、全員が捨て子である少勇の家の13人きょうだいの末っ子としてすくすく育っていくうちに、非凡な才能を発揮し始めた。

 2014年に「C★NOVELS大賞」特別賞を受賞した本作は、その展開と、登場人物たちの心の揺れ動きに、多くの読書家たちから賞賛の声が寄せられている名著だ。圧倒的疾走感で描き出されたこのファンタジー小説の熱気から、将棋をはじめとした「盤戯」の面白さを感じ取ってみるのもいいだろう。

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「将棋ブーム」の今だからこそ読みたい! 少年の一手が国の運命を変える! 王城夕紀著『天盆』

 教育やビジネスにも役立つとして、その思考法にも注目が集まっている将棋。脳のトレーニングでやるもよし、家族とのコミュニケーションでやるのもよしだ。誰かと将棋盤を挟んで向かい合い、カチッという駒の音を聞きながら、ゆっくり一局交えるなんてのもいい年末年始の過ごし方ではないだろうか。

文=田中利知(ネイビープロジェクト)