浮気相手は15歳の男子高生…雑に扱われる同棲彼氏との結婚か、それとも心底大事にされる恋か。揺れるアラサー女子の決断は…『恋のツキ』

マンガ

更新日:2018/1/22

『恋のツキ』(新田 章/講談社)

 彼氏に「オレと結婚するでしょ?」といわれて喜べるかどうかで、そのカップルの関係は如実に浮かび上がる。「結婚してください」ではなく「するでしょ?」。当然のようにいわれることを、“信頼”ととるか“雑”ととるか。3年同棲していた彼氏・ふうくんに言われた31歳のワコは、後者だった。大事にされていないわけじゃない、だけど我慢するのはいつも自分。些細な不満の積み重ねでだれてきた関係の隙をつき、彼女の心にすべりこんできたのはなんと15歳の男子高生。そんな不純でピュアな三角関係を描いたマンガが『恋のツキ』(新田 章/講談社)である。



 いや正直ないわ!と思った。だって15歳ですよ。高校生ですよ。犯罪じゃん。いくら好みの顔で、趣味が合って、話しているだけで時間を忘れるくらい一緒にいるのが楽しいからって、未経験の若者をホテルに連れ込んじゃだめでしょうが、と。だけど実際、そんな男の子にまっすぐ好意を寄せられたら、しかも彼氏との関係が停滞していて、自尊心が低くなっている状態だったら、跳ねのけられるだろうかと逡巡する。

 だめだよ、なしだよ、とワコに“引く”のはたぶん、どこかで彼女の気持ちがわかってしまうからだろう。15歳のイコくんのまぶしさに目がくらんで、自分もあの頃に戻った気持ちになってしまうのも、もう一度今からやり直せるような気がしてしまうのも、理解できてしまうから。

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 大人は、積み重ねてきた時間のぶん、諦めを重ねている。いろんなところにぶつかって、小さな痣をつくり続けている。骨折ほどの大けがなら治療することもできるけど、痣は時間が経過するのを待つしかない。そうこうしているうちにまた別の痣ができてのくりかえし。自覚しなきゃ痛みも忘れる程度だけれど、はっと全身痣だらけだったことに気づいたのがたぶんワコだ。騒ぐほどではない痛みを、静かに抱え続けている自分に気づいてしまった。ふうくんの自分本位でおざなりなセックス。仕事に対してナチュラルに上から目線で語られること。結婚が決まったら決まったで「奥さん」という役割をあたりまえのように押しつけられること。そのすべてにずっと傷ついていたことに、イコくんと出会って気づいてしまった。そして現実味のないイコくんだけが、ワコの傷を癒せるのである。

 ふうくんに浮気がバレたとき、ワコは彼のもとに戻ることを決めた。だけどもはや、知ってしまった癒しなしで現実を生きていくことはできない。「二股でいいからつきあってほしい」というイコくんと、ずるずる関係を始めてしまう。ますますだめである。だって関係を始めてしまったら、それはただの現実になってしまうのに。


 ふうくんは悪人じゃない。勝手で俺様でデリカシーもないれど、ふつうに働くふつうの男だ。32歳、定職のないワコには願ってもない相手だ。でもだからといって「ふうくんのところに戻りなよ」とは言い難いところにこの作品の妙はある。“大事にされる”ってそういうことじゃない、幸せってその延長にはたぶんない、と読みながら感じてしまうから。

 4巻ではワコはとある決断をくだす。「よくやった!」と「だめじゃん」が入り混じったその決断の先で、ワコはどんな未来を描いていくのか。逃げられない現実にどう立ち向かうのか。背徳的な恋愛を通じて女子に現実をつきつけてくる本作、展開がますます楽しみである。

文=立花もも

(C)新田 章/講談社