「魂を愛してほしい」――ずっと好きだった同級生とセフレの身体が入れ替わった。それでも愛せるのか? 衝撃のBLマンガ『カッコウの夢』

マンガ

更新日:2018/1/22

『カッコウの夢』(ためこう/祥伝社)

 まっすぐこちらを見つめる2人の男性。――印象的な表紙に、思わず手に取ってしまった読者も多いでのはないだろうか。『カッコウの夢』(ためこう/祥伝社)は、本命とセフレの身体が入れ替わり、本当の「愛」に気づく男性たちの物語である。

 BLマンガでありながら「見た目が変わっても、心が同じなら愛せるのか」という永遠のテーマを描く本作は、BLの枠を越えて反響を呼んでいる。

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 大学生の名塚(なつか)は、高校生の時からクラスメイトの白島(はくしま)に片想いをしていた。白島は家柄もよく容姿端麗で、人望に厚い。自分には眩しくて完璧な白島を「汚してはいけない」と、名塚は気持ちを隠したまま友人関係を続けている。

 その状況に葛藤を抱える彼は、激しい恋心を抑えるため、素性の分からない瀬野(せの)という男をセフレとして白島の代わりにしていた。

 しかしある時、瀬野のバイクと白島が衝突し、白島は意識不明になってしまう。さらに瀬野は「自分は白島」だと言い出す。当初、瀬野の悪ふざけだと思われたが、白島しか知らない2人の思い出を語る瀬野に、名塚は白島と瀬野が入れ替わってしまったことを知る。

 決して自分が触れられなかった本命の魂が、セフレの身体に入った。

 名塚は「手の届く」瀬野の身体に入った白島に恋心を打ち明けるが、白島には「魂を愛してほしい」と拒絶されてしまう。

 魂を愛する――とは、どういうことなのだろうか。

 瀬野という男の見た目をした白島を愛することは、「魂を愛している」ことになるのではないだろうか。名塚は悩みながらも、「瀬野の中にいる白島」を愛し続けることを決心する。しかしその矢先、白島の意識が戻ったとの連絡が入り……。

 みなさんも一度は、恋人のことを「見た目が変わってもこの人を愛せるだろうか」と考えたことはないだろうか。もし、まったくタイプではない顔になってしまったら、身長が低く(高く)なってしまったら、体形が細く(太く)なってしまったら……それでも、相手を愛せるだろうか。

 そもそも、目の前の恋人を愛しているのは「見た目も含めて」なのだろうか。

「たとえ見た目が犬に変わっても今まで通り愛せます!」と絶対的な自信を持って言える人もそうそういないとは思うが、「愛は見た目を超えたところにある」と誰しもロマンチックに考えているところもあるはず。

 本作はそういった普遍的な愛のテーマをうったえている。それがBLというステキな男性たちの恋愛模様と共に描かれているとは……めちゃくちゃおいしい。

 女性がBLを好むのは、「自分とはまったく無関係だから」だと聞いたことがある。例えば今回の話で言うと、瀬野と白島がもし女性だったら、「本命の代わりに女の子をセフレにするなんてヒドイ!」「本命だって複雑だわ!」とか、女性は自身の経験や自分がその立場だったらとか、様々なことを考えてしまい 、物語に没頭できなくなるとか。

 BLは、女性がいないからこそ、そういった「引っかかるところ」が解消されて、純粋にストーリーを堪能できる。確かに本作が男女ものだったら、ここまで楽しんで読めないかもしれない。そういう意味でも、本作はBLにふさわしいテーマであり、BLだからこそ多くの女性の支持を得た一冊なのである。

文=雨野裾