14年間で万引き6000回!? 母になっても刑務所に入っても治らなかった万引き女子の自伝

社会

公開日:2018/1/4

『万引き女子〈未来〉の生活と意見』(福永未来/太田出版)

 人は誰もが何かに思い入れを抱いて生きている。酒やタバコ、恋人や仕事などは人生に楽しみを与え、毎日を輝かせてくれるだろう。しかし、思い入れが依存に変わったとき途方もない苦悩が幕を開ける。依存対象に突き動かされながら生きるようになり、感情や意思まで支配されてしまうのだ。仮に依存対象が「犯罪」だったとしたら―。待つのは地獄である。

『万引き女子〈未来〉の生活と意見』(福永未来/太田出版)は14年間で6,000回もの万引きを繰り返した女性が自らの半生を振り返るノンフィクションである。4回の逮捕と2回の刑務所生活を経て、著者が導き出した教訓は何なのか。全ての「依存症」とその予備軍に捧げられたメッセージが本書にはある。

 著者が育ってきた家庭環境は、どう見ても「幸福」とは言い難かった。母からは理不尽な体罰を、父からは性的虐待を受け続け、昔は仲の良かった姉もいつしか著者をいじめるようになった。服を買ってもらうときも自分の好みは主張できず、必要な文房具を買うときでさえ何度も頭を下げなければならない。幼少期から思春期にかけて著者の鬱屈はたまっていくばかりだった。

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 著者が初めて万引きをしたのは小学校2年生のときである。隣町の本屋で飴を盗んだのだ。しかし、このときの著者は猛烈な恐怖に襲われ、「飴1個でこんな思いすんのいやや」と考えるほどの常識があった。万引き癖がエスカレートしていくのは中学校に入ってからである。学校ではいじめに遭い、居場所をなくしていた著者は幼なじみと万引きに興じるようになった。著者の言葉を借りれば〈万引きの虫〉が住み着いたのだ。著者が万引きをする動機はよく言われるような「スリルを求めて」ではない。ただただ、「親に頼まずに物が手に入る」物欲がふくらんでいったという。

 高校に入学しても、水商売のアルバイトを始めても、図書館司書の資格を取るために短大に入っても著者の万引きは治らなかった。アルバイト先では人気があり、稼ぎは日に日に増えていく。しかし、物欲を抑えることはできない。就職、結婚、妊娠、人生の転機を迎えても著者は毎日のように万引きを続ける。夫と一緒にいるときでさえ、隠れて万引きをしていたのだから重症だ。著者には妻や母親の自覚がなかったわけではない。しかし、どんな立場になっても「万引きを止める」という発想にはつながらなかったという。著者は自らが万引きに依存していた理由を自己分析する。

私はすべてにおいて「損をしている」気がしていました。誰かよりも、あの子よりも損をしている。いつも自分ばっかり損をしている。(中略)「こんなに損をしているんだから万引きしてもいいやん」という気持ちがありました。

 誰といてもどこにいても著者の「損をしている」という気持ちは変らない。ならば、当然万引きも止められない。ついに著者が初逮捕をされるのは妊娠6カ月のとき。そして、再び逮捕されて実刑判決を受けるのは出産後のことである。判決が出るまでの間、精神医療センターに通う道中でも著者は万引きをし、先生に「最近は万引きをしていません」と語っていた。振り返って著者は自分を「悪魔」と呼ぶ。初めての刑務所の中でも著者の万引きへの衝動は消えない。出所後もすぐに万引き生活へと戻っていく。そんな著者がどうやって万引きへの依存から抜け出せたのかはぜひとも読者が自分で確認してほしい。

 本書の大半は著者の強い「被害者意識」に貫かれている。著者は幼いころからずっと負の感情に囚われ、自殺未遂まで行った。しかし、依存を克服した今は「あのとき死ななくてよかった」と告白する。そして、離れて暮らす娘への真摯な謝罪も書き記す。依存を乗り越えるのは地獄の道のりだが、より最悪な地獄は依存の真っ只中にある。著者は自分の人生をさらけ出すことで、依存症の地獄に苦しむ人々へのエールを送っているのだ。

文=石塚就一