シンプル手順で激ウマ! 銀座の名人が教えるおうち天ぷらの極意

食・料理

公開日:2017/12/29

『「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』(近藤文夫/世界文化社)

 家庭で天ぷらを上手に揚げるのは難しい。そう感じている人は少なくないのではないだろうか。食感がベチャベチャしている、衣が厚すぎて油っぽい……おうち天ぷらはなかなかプロのそれとは同じ味にならない。調理も後片付けも面倒なわりには作り手が報われない料理である。

 しかし実はあったのだ。おうちでもサクサク、薄い衣のプロっぽい天ぷらを揚げる方法が。

 そのコツを教えてくれたのが『「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』(近藤文夫/世界文化社)である。著者は銀座で天ぷら専門店「てんぷら近藤」を20年以上営む凄腕。そんな天ぷらマスターのワザがすごかった。

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 まず特殊な材料・道具は一切なし。衣に使うのは卵・水・薄力粉だけ。揚げるのに使う鍋はどこのおうちにもあるフライパンだ。揚げ油はサラダオイルとごま油を3対1でブレンドしたもの。これをフライパンの深さ3cmのところまで注ぎ、素材に合った温度と揚げ方で揚げる。こんなシンプルなやり方で銀座の名店の味が再現できるらしい。

 著者いわく天ぷらとは揚げ料理ではなく蒸し料理であるという。

天ぷらは、ころもという膜で素材を包み、熱い油の中で「素材自身の水分で蒸すように火を入れる」料理だからです。

 そこで著者が目をつけたのが衣のつけ方。「天ぷらこんどう」の天ぷらは普通の天ぷらのようにいきなり素材に衣をつけない。薄力粉をさっとつけたあとで衣にくぐらせるのが基本だ。

素材を薄力粉で覆うことでころもと素材の間にすき間ができ、理想的な蒸し空間になるのです。

 そして揚げるときも一工夫。完全に素材に火を入れる手前で天ぷらを油から引き上げ予熱で蒸らして仕上げる。そうすることで素材の持ち味やみずみずしさが失われずにすむのだそう。そして衣は薄づきにして素材の味を邪魔しないようにする。その結果衣は軽くサクサク、中はうまみたっぷりのおいしい天ぷらができあがるというわけだ。

 論より証拠を、というわけで実際に本書の手順にしたがい、天ぷら初心者が自宅のキッチンで天ぷら(牡蠣、かきあげ、エリンギ)を作ってみた。

 卵と水を合わせて作った卵水と薄力粉を1対1で混ぜ、水分が多めの衣を作る。エリンギに薄力粉をまぶしたら、衣にさっとくぐらせて170度に熱した揚げ油の中へ。何度かひっくり返し、油の泡が少なくなってきたところで引き上げる。エリンギが揚がったら油の温度を180度まで上げ、次は牡蠣を同じように揚げていく。

 そして最後はかきあげ。かきあげのタネは刻んだ具材に少量の薄力粉を加えて混ぜ、そこにころもを注いで混ぜ合わせたもの。網杓子で一回分のタネをすくい、これも他の天ぷらダネ同様静かにフライパンの中へ滑り込ませる。油の温度は190度だ。

 素材によって油の適温は違うし、揚げ方や引き上げるタイミングも微妙に違う。自分で手を動かしてみるとそこの加減が難しい。筆者は天ぷらの調理経験がほとんどないため、なおさらそう感じたのかもしれない。それでも仕上がりはなかなか上出来、といったところ。普段食べているおうち天ぷらより明らかに衣が薄いし、かきあげも中までさっくり揚がっている。家庭のキッチンでも、作っている人が初心者でも、コツさえ押さえればおいしい天ぷらは揚がるのだ!

 本書にはそら豆、百合根、みょうが、なすといった季節の野菜天、江戸前天ぷらの王道である海老、穴子といった魚介の天ぷら、かきあげと、プロ仕様の天ぷらレシピが続々と登場する。大ぶりに切ったかぼちゃやさつまいもをじっくり30分くらいかけて揚げる「天ぷら近藤」名物レシピや、パスタ、スイーツなどの天ぷらアレンジレシピなど、変わり種レシピが掲載されているのも魅力だ。

 何より嬉しいのがこれらのレシピがすべて「家庭で作れる」ということ。衣の作り方から揚げ方のポイントまで必要なことはすべて本書に書いてある。おうち天ぷらは難しい、というこれまでのイメージを覆してくれる一冊だ。

文=遠野莉子