早くて安くてラク! 夫や彼との食卓に「がんばらなくても美味しい」一品をそえるレシピ

食・料理

公開日:2017/12/31

『SHIORIの2人で楽しむゆるつま』(講談社)

 若い夫婦にとって「家飲みタイム」は意外なほど大切な時間になる。昼間はお互い家事や仕事に追われ、ほっと一息をつけるのは就寝前のわずかな合間だけという夫婦は多いだろう。軽いおつまみとともにグラスをかわす習慣こそ、夫婦らしい穏やかな空気が漂う最高のひとときなのだ。

 おつまみにこりすぎたら、家飲みタイムが面倒になってしまう。しかし、少しはひねりを利かせて夫に愛情をアピールしたい。そんな妻の複雑な心情に応えてくれるレシピ本が『SHIORIの2人で楽しむゆるつま』(講談社)である。著作の累計発行部数が400万部を超える料理家、SHIORIさんが紹介する「ゆるいおつまみ」=「ゆるつま」はいずれも手間いらずなのに「こんなのおいしいに決まってるでしょ!」と感じる絶妙な内容。夫婦で飲むお酒をさらに楽しくしてくれる一冊だ。

 料理教室やスタジオ運営、本の執筆などで忙しく過ごすSHIORIさんだが、美容師である夫もなかなか慌ただしく毎日を送っている。ともすれば、すれ違いが起こりかねない夫婦を支えているのは、夫の優しさと家飲みタイムの充実ぶりである。

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 メニューの数々で驚かされるのは、圧倒的にゴージャスな見た目と作り方のギャップだ。高級居酒屋で出てきてもおかしくないような料理が、フライパンも鍋も使わずにできてしまうのである。大活躍するのは「クリチー」ことクリームチーズ。1cm角に切ったクリチーに塩からと万能ねぎをのせただけの「クリチー塩からのせ」、レンジで加熱した桜えびをまぶしただけの「クリチー桜えびまみれ」など、いずれも5分とかからず完成するらくちんメニューだ。

「もっとボリュームのあるものが食べたい!」とわがままな人にも本書は応えてくれる。そのうえ、家飲みを行う時間を考慮して深夜に食べても太らない食材を使っているのがにくい。揚げ物ならヘルシーなささ身を使った「ささ身の柿の種フライ」がおすすめ。「牛肉のタリアータ」「ゆで豚とキャベツのラー油がけ」と野菜とのバランスもしっかりカバーしてくれている。

 さらに本書のうれしいポイントはコラムの充実ぶりである。毎日の食卓を演出するために大切な「ストック品」を解説してくれるコラムは特に大助かりな情報だ。とりあえず「これだけは切らさなければなんとかなる!」という便利アイテムで、突然おつまみが欲しくなったときにも十分対応できる。めんつゆ、キムチ、クリチーにラー油などは本書のレシピでもヘビーローテーションされている食材だ。そして、どんな調理法にも応用できる「卵メニュー」もありがたい。肉まき、揚げだし、だし巻きサンドなど、やはり人気料理家のアイデアは一味違うと感動する。

 本書を男性が読むと「料理家が奥さんなんて夢のよう!」と思うかもしれない。しかし、現実には撮影の残りや試作品を食卓に出すことも多いという。どうしても忙しいときはきちんとした夕食も用意できない。しかし、それでも夫婦の絆は固くあり続けている。SHIORIさんは語る。

そんなとき、パパッとあるものでつまみだけを作って飲んだり、外にさくっと飲みに行ったりして、ゆるくつまんで飲む時間が今では、私たち夫婦の間でかけがえのない楽しみとなっている。
互いの状況を尊重し、無理なく自然体でいられるスタイルに落ち着き、それが心地良く感じられる今日このごろ。

 夕食に関して文句を言わない優しい夫のために「晩酌を充実させてあげたい」との思いから生まれたのが本書のゆるつまメニューだったのだ。「料理は愛情」という言葉の意味をかみしめられる、あたたかくてゆるいレシピ本である。

文=石塚就一