風俗で出会った彼女は運命の恋? 30代半ば男が求める“大人の本物の恋”

マンガ

更新日:2018/2/5

『ロマンス暴風域』(鳥飼茜/扶桑社)

 年収も肩書きも関係ない。「ありのままの自分」を認めてほしい。愛してほしい――。

 誰だって一度はそんな願望を抱いたことがあるのではないだろうか。
 だが、いざ「結婚」がリアルに迫ってくる年齢になると、それは難しいかもしれない。

 結婚は生活で、恋愛とは明らかに異なる。
 容姿や仕事、収入、性格、趣味、自分が耐えがたい欠点はないかどうか……など、つぶさに観察してしまうのだ。
 それに「ありのままの私を見て愛して」よりも「お互いほんの少しでもいいから向上心を持って歩み寄る努力をしようね」の方が、スムーズに生活が回るような気がしてならない。

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 では一体「大人の本物の恋」とは何なのだろう。生活の安寧を求めるでもない、条件でもない。「好き」だから一緒にいる情熱的な真実の愛は、本当に存在するのだろうか?

 鳥飼茜の『ロマンス暴風域』(扶桑社)は、風俗嬢に年収や肩書きではない運命を感じ、恋に翻弄される男のマンガだ。

 主人公は、高校で美術を教える30代半ばの臨時教員・佐藤。非常勤講師の契約が今年度いっぱいで切れてしまうという不安定な状況に置かれている。
 大学時代の彼女と別れてから、非正規という立場のため、婚活でも出会いがなく、自信を失くす一方。

 しかしある日、何気なく立ち寄った風俗店で「せりか(芹香)」と名乗る女性に、運命の恋をする。

 せりかは、佐藤にはじめて会った瞬間「んはははははは!!」と爆笑し、「アンタに会うために私はここへ来たと」と告げる。21歳で福岡出身だと言う彼女に、佐藤は、目の前の自分を肩書きではなく、一人の男として見てくれる心地良さを感じ、風俗へ通い始めることになる。

 だが、この「せりか」と名乗る女性。女性の筆者から見るとどうも疑わしい。
「美大に行きたかった」と言うせりかに、自分は美術講師であることをアピールし、動物園へのデートの約束を取り付けた佐藤。一日楽しくデートを満喫したのだが、帰り際、電車のドアが閉まる瞬間に、彼女は、実は明日結婚することを告げる。

 佐藤は大変なショックを受け、学校も仮病を装い欠席。連絡が取れない佐藤を心配し、もうすぐ結婚を予定している美大時代の気の置けない友人・芝内理加が会いに来て、せりかと別れることを勧めるも、恋はすでに暴風域の真っ只中……!

 本書では、佐藤の視点で物語が進行するため、せりかの真意や詳しい背景は明らかにされていない。

 4つ年上の旦那がいて、田舎が似合う地味人間だった私が、旦那の力で東京に出て来られたと語るせりか。「ホンマに好いとう」「運命」なのは佐藤だが、結婚は恋愛とは別だから、離婚はしないと語るせりか。旦那からの電話はデートの途中でもすぐに対応するせりか。

 ……彼女の心の内は謎が深まるばかりだが、それと共に感じるのは、佐藤のコンプレックスの強さだ。低い身長や見た目だけでなく「稼げない」ことにも絶望を抱いているため、せりかとの恋も見落としていることがいくつもあるような気がしてならない。

 女性はあらゆる面において「生きづらい」と私は何度も感じてきたが、男性の「生きづらさ」も、もはや社会問題の域なのだと痛感した。

 男と女が裸で向き合っても、それは純粋な恋だとは限らない。

 大人の「真実の愛探し」は一体どこへ向かうのか。続きを固唾を呑んで見守ろうと思う。

文=さゆ