救急医療の現場で人の生と死に向きあってきた医師が伝えたい「マインドフルな生き方」

ライフスタイル

2017/12/27

『自分を休ませる練習』(矢作 直樹/文響社)

 本書の著者は、『人は死なない』で一躍脚光を浴び、その後次々とさまざまなテーマの著作を出版し続けている臨床医(東大名誉教授)だ。

 救急医療の現場で15年、人間の生と死に向きあってきた著者は、本書『自分を休ませる練習』(矢作 直樹/文響社)の中で「対症療法によってでしか患者さんを助けられないことに、ある種の限界を感じていました」と述べたうえで、ストレスフルな生き方をしている人たちに向けて、今話題の「マインドフルネス」をキーワードに、自分を休ませるための生き方の提案を行っている。

 マインドフルネスというと、一般的に瞑想をイメージする人が多いだろう。だが著者は、「本来マインドフルネスとは、何かの行為を指すのではなく、『今この瞬間』に気づいている状態」であり、今を生き切ることこそ大切だという意味を持つ神道の「中今(なかいま)」とも同じだと述べる。つまり、「何も特別なことをする必要はない」というわけだ。

 要約すると、過去や未来に囚われず、無邪気な子供のように今という時を思う存分楽しみ、五感を開いてその体験をまるごと味わう心の在りようがマインドフルネスなのである。

 マインドフルネスがブームになっている背景について、著者は「日本人が当たり前に知っていた感覚を取り戻す時期に来ているからではいか」と捉え、本来の自分を取り戻すために心身を解放して、植物のようにありのままに生きるために、誰でもいつでもすぐにできるシンプルな方法を提案している。

 それは自然に肩の力が抜けるような、次のような提案だ。

・「頑張りすぎる人」は「いいかげん」になる。
・期待しない、依存しない。
・喉を意識して食べる。
・長く、ゆっくり呼吸する。
・「自分が気持ちいいこと」を選ぶ。
・童心に返る。
・四季の移り変わりに気づく。
・鼻をきかせる。
・集中できる「場」をつくる。
・何もしない時間を設ける。

 他にも、「『早い』ことが良いとは限らない。『先送り』にしたほうが良いこともある」「凝りかたまったからだをゆらゆら揺らしてみる」「目を覚ました後、寝る前の一瞬を、自分だけのために使う」等々、私たちが忘れていた感覚を呼び覚ます知恵や方法がたくさん挙げられている。これらはいずれも、頑張りすぎて自分や周りの誰かを苦しめている現代人、オーバーヒートぎみな生活を送っている多くの日本人にとって、その気さえあれば誰でも簡単に実行できるものばかりで、確かに生き急ぐ脳に新鮮な空気をふき込んでくれそうだ。

 矢作氏の従来の著書は、欧米のスピリチュアリズムが主題になっているものが多いのに対して、本書はどちらかというと東洋的な発想に近く、全体をとおして「禅的暮らしのススメ」といった印象を受ける。

 例えば、本文中で、毎朝顔を洗うときに「(自分の)顔を鏡で見ていますか?」と読者に問いかけており、これは禅の観相にもつながる。著者はその理由についてこう述べる。

「心に思うことは、すべて顔に出ます。顔に出ると、次は口に出ます。私たちが口に出していることは、その前に顔に出ているし、さらにその前に心で思っていること。だから自分の顔を毎朝、しっかりと見ることが大事なのです」と。

 本書はただ読むだけでも心がホッとするような内容で、読後、自分の心を見つめなおすきっかけを与えてくれることだろう。

文=小笠原英晃