『ザ・ノンフィクション』に自ら出演し話題に…「人殺しの息子と呼ばれて」北九州・連続監禁殺人事件。実行犯の母親が語る、息子への思いとは?

社会

2017/12/28

『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件(新潮文庫)』(豊田正義/新潮社)

「いま思うと、すべてが異常でした。いまの私は、あの当時の自分が信じられません。どうしてあんなことができたのだろうと思いますが、私が自分で犯した罪には違いありません」

 一家7人が凄惨なる殺し合いを行った北九州連続監禁殺人事件。その公判のなかで、実行犯である緒方純子が語った言葉である。松永太という1人の男の巧みな話術と虐待によって引き起こされた事件の真相が明らかになればなるほど、日本中がその異常性に震撼した。いま、本事件の主犯である松永と内縁の妻である緒方の長男が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』に自ら出演したことで、話題となっている。

 事件の概要を簡単に説明すると、主犯の松永は言葉巧みに緒方純子、純子の両親と妹夫婦に近づき、信用させて洗脳。アパートの一室に妹夫婦の子ども2人も含めて緒方一家を監禁し、通電という電気ショックを与える虐待によって全員を支配下においた。食事や排泄も制限し、ルールを破ったと言いがかりをつけては虐待を繰り返した。さらには家族間で互いを監視、密告させあうことでそれぞれを疑心暗鬼の状態におき、家族同士で殺害、遺体を解体するまで仕向けたのである。しかも一連の凶行で、松永は自身の手を一切汚さなかったのだ。

 前代未聞の事件。その犯人を親に持つ息子は、一体どのような人生を歩んできたのか? 『ザ・ノンフィクション』のなかで息子は、自身が松永に受けた虐待や、学校にも行かず狭い一室で一日中過ごしていたこと、偽名を与えられていたこと、解体した遺体の一部を鍋で煮込んでいた様、など記憶の断片を話した。両親の逮捕後は施設に預けられ、荒れた思春期を過ごしたことなども語られている。事件の全貌を理解したときの、彼の気持ちを想像することは難しい。しかし自分にも松永のDNAが流れていると怖くなるときがあった…といった発言には、凶悪犯を親に持つ子供の苦悩が見えた。

 一方、松永と緒方にとって子供はどのような存在だったのだろうか? 本事件について克明に記されたノンフィクション『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件(新潮文庫)』(豊田正義/新潮社)を読むと、松永と緒方の関係がより強固なものになった要因の一つに、「子供」の存在があったことがわかる。もともと幼稚園に勤め、子供好きだった緒方は、松永に認知してもらえなくても子供を産んで育てようと決意していた。それほど待望の妊娠、出産だったのだ。しかし松永は、その子供すらも利用しようとする。

「しかし松永にかかると子供さえも支配の道具にされてしまう。まず彼は『自分らが捕まって犯罪者の子供になるくらいなら逃げたほうがいい』と繰り返し主張した。母親は『子供のために』というフレーズに弱いものだが、純子も例外ではなく『そういわれると、子供が生まれるから自首をして身を潔白にしたいという気持ちより、時効まで松永といっしょに逃げ続けようという気持ちのほうが強くなりました』と語っている」(p.84-85)

 逮捕後も、松永は「子供のために黙秘しろ」というメッセージを緒方に送るなど、子供の存在をちらつかせて緒方を支配しようとしていた。

 また、初めての遺体解体作業時、なんと緒方は松永の2人目の子供を身ごもっていた。出産予定日間近の身重の体で、包丁やノコギリで身体を切断し死体をバラバラにするという作業を行っていたのだ。そして切断部分を家庭用鍋に入れて煮込み、柔らかくなった肉片をミキサーにかけ、粉々にした骨や歯を味噌と一緒に団子にして固め、フェリー船上から海に投げ、隠滅をはかったという。このあたりのことは『ザ・ノンフィクション』の番組内で、その様を見ていたことを息子も証言している。子供を守らねば、お腹のなかの胎児を守らねばという不安が緒方には常にあった。そこを松永に利用された側面も大いにあっただろう。

 緒方は、公判の最終意見陳述でこう述べている。

「私には二人の子どもがおります。これから一生を通し、広く世間の皆様に育てていただくことになります。彼らが生きて行く社会がより良いものであってほしい。そして、その思いは今、すべての子供達に向かっております」(p. 293)

 2011年、最高裁で松永の死刑判決が確定。緒方は無期懲役が確定した。生きて罪を償い続ける緒方は、今後、息子とどのように向き合っていくのだろうか。

文=藤野ゆり(清談社)