世の中みんな変態かも!? アパートの住人たちの「性癖」が垣間見えるオムニバス漫画『低反発リビドー』

マンガ

公開日:2018/1/3

『低反発リビドー』(高野雀/徳間書店)

 自分では「普通」と信じていることが、世の中から見ると「そうでもない」と気づかされることってないだろうか?

 特に、夫婦やカップル間での常識やルールは、女子会などで暴露しない限り、誰にも知られることのないものは多い。

 連絡の頻度や休日の過ごし方、お金の管理方法などはもちろん、皆の前では毅然とした態度の「クールなできる男」が、帰宅後、彼女の前では赤ちゃん言葉を使って会話し、そんな毎日が日常だ……なんて話もまれに聞く。夫婦やカップルはその数だけ、実に様々な独自の常識が存在すると思うのだ。

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 そんな「自分では普通と思っていたけれど実は……!?」という驚きエピソードが存分に楽しめるマンガがある。

 高野雀の『低反発リビドー』(徳間書店)だ。本書は、どこにでもありそうな5階建てのアパート「コルダーハイツ」で展開される「性癖」オムニバスストーリー。

 デビュー単行本『さよならガールフレンド』で注目を浴び、女性と服にまつわる群像劇『あたらしいひふ』も絶賛発売中の作者・高野雀が2015年に発売した作品で、全30話収録されている。

 1話につき約5ページ前後+四コママンガと短いものの、テンポよく、幅広い性癖を垣間見ることができる。

 中でも一番衝撃を受けたのは、美人の彼女を太らせることに喜びを感じる301号室の住人・韮澤(にらさわ)くんのエピソード。

 彼女に自宅で手料理を食べてもらう約束がキャンセルになり、男友達二人を部屋に呼ぶ韮澤くん。だが、用意された食事の量に友人は驚嘆する。「あんなキレイな子なのに意外と大食いなんだな」とつぶやく友人に「最近ようやく ね」と返事をする……!

 なんでも、美しい顔や身体が、自分が手をかけた食べ物のせいで脂肪に包まれて形を変えていくのを見るのが興奮するらしく、たくさん食べてもらえるよう料理も勉強したのだと言う。最初から太っている女性には興味がないとのことで、背筋が寒くなった。

 他にも、鎖骨フェチや制服好き、宅配のお兄さん萌え……という可愛らしいものから、彼女のわきが永久脱毛という事実を知り、ショックを受ける毛フェチの彼氏、経産婦の素晴らしさを説く男性、後期高齢者好きのシングルマザーなど、あっと驚く性癖を持つ住人たちが次々に登場する。

 本書を読むと、この世に「普通」の人間なんてどこにもいないのではないか、という気がしてくる。コルダーハイツの住人たちは、友人やパートナーに指摘されてはじめて、アブノーマルな性癖であることに気づく人も多かったし、実際自分の性癖がノーマルかどうかなんて、堂々と聞いて回ることも難しいので判断のしようがないのだ。

 他人の日常をこっそり覗いている気分が味わえる、だけどそこまで重くはない小気味いいリズムの物語である。

 隠れた「変態」がこの世にはたくさんいるかも!? とゾクゾクした後は、思わず誰かと暴露大会をしたくなるかもしれない。

文=さゆ