大切な人がいなくなっても、新しい一日はやって来る。夫を亡くした妻が、スローライフで少しずつ時を動かす
公開日:2017/12/27
ずっと一緒にいた大切な人と二度と会えなくなってしまったら、あなたはどうするだろうか。きっと、最初はその事実が受け入れられず呆然とし、徐々に悲しみや寂しさが襲ってくるに違いない。しばらくは何をする気にもなれないだろう。でも、いつかは「大切な人はもういないのだ」という事実を受け入れて前に進む時がやってくる。人生はまだ続いていくのだから。
しゅういちさんと英子さん夫婦の、愛知県のニュータウンで営まれる自給自足のていねいな暮らしを紹介した、「あしたも、こはるびより。」シリーズ。これまでに2冊の本が出版され、ドキュメンタリー番組も制作された。シリーズ最終章、『きのう、きょう、あした。』(つばた英子・つばたしゅういち/主婦と生活社)では、しゅういちさんを亡くした後の英子さんの暮らしにスポットが当てられている。
しゅういちさんがいなくなって、「寂しいというより虚しいという感じ」と語る英子さん。体重も減り、日課だった畑仕事をする気も起きなくなってしまったという。そんな時に思い出したのは、しゅういちさんの「人に依存しすぎないで、何でも自分で。こつこつやると必ず自分のものになるから」という言葉。少しずつ畑の手入れを再開し、甦った畑で作った作物を来客に振る舞い始め、もとの生活を取り戻していく。
前2作同様、本書にも英子さんが畑で収穫した果物や、腕によりをかけて作った料理などの写真が多数掲載されていて、目で見て楽しい構成はそのままだ。表紙にもなっているホームベーカリーでふっくら焼きあがったパンの写真などには、つい目を奪われてしまう。
ただ、本書の魅力はそれだけではない。英子さんの毎日には、日々を慌ただしく過ごす私たちも取り入れたい習慣や考え方が溢れている。
例えば、「ちいさなノルマを毎日」。ひとつのことを集中してやり続けると、どうしても疲れる。だから1日で終わらせようとせず、小さなノルマを決め、それを毎日続けていくのが英子さん流。畑仕事も機織りも1日1時間だけと決めていて、作業が途中でも絶対にそれ以上はやらないのだという。
「何でも便利にしすぎるとダメ」という言葉もじんわりと響く。日頃から便利なものに頼りすぎていると、それまでできていたことがどんどんできなくなっていくのだという。来年90歳になる英子さんだが、手すりや杖に頼らず、自分の足で注意しながら急な階段や畑もしっかり歩く。それが英子さんの元気の秘訣なのだ。
しゅういちさんとの思い出があちこちに残る家で、楽しみながらひとりで毎日の生活を営む英子さんの姿に、元気づけられる読者は多いだろう。しゅういちさんが大切にしていたもののひとつに、「あとみよそわか」という言葉がある。よくできたと思っても、そこでもう一度自分のした結果を確認することの大切さを表したこの言葉を、英子さんは今も呪文のようにつぶやいているという。しゅういちさんと積み重ねた時間は、英子さんの中に確実に息づいているのだ。
ぜひ「あしたも、こはるびより。」シリーズをまとめて読んで、生前のしゅういちさんと英子さんのていねいな暮らしも見届けてほしい。
文=佐藤結衣
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