精神障害、貧困、自殺未遂、生活保護受給…。元エロ漫画編集者が地獄を生き抜いて「再生」するまでの記録

小説・エッセイ

2017/12/27

『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(小林エリコ/イースト・プレス)

 死にたいほど辛くなった時、あなただったらどんな行動をとるだろう。どこに救いを求めていいのかわからず、考える気力すらなくなるような、そんな「死にたいほどの辛さ」を乗り越える方法を見つけるのは難しい。言えるのは、その時の行動が、その後の人生を少なからず左右するだろうということ。そして、もし、その後にさらなる苦しみが待ち受けていたとしても、生きていれば、立ち直れる道がきっとあるということ。

『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(小林エリコ/イースト・プレス)の著者は、ブラック企業で働いていた21歳のとき、不安と絶望の中で自殺を図ったが、未遂に終わる。本書には、死にたくても死ねなかった著者が社会復帰するまでの、絶望と希望が克明に綴られている。

 

 1990年後半の就職氷河期、短大卒で就職浪人した著者がやっと就けたのは、エロ漫画雑誌の編集の仕事。エロ専門とは知らずに応募したものの、好きだった漫画に関われるからと、懸命に働いた。どんなに働いても残業代はつかず、もらえるのは12万円のみ。仕事は増えるばかりなのに生活は苦しく、社会保険もない。蓄積されていく不安の中、ついに限界が来た日、著者は大量の向精神薬を飲んで死のうとした。3日間、生死の境をさまよったものの、助かった命。でも、そこからが、長い闘いの日々だった。

 精神病院への入院。退院して体調が回復し、再び働こうとするも、受けた面接すべてに落とされて絶望し、また自殺未遂。その後も何度か同じことを繰り返す姿は痛々しく、なんとも歯がゆい。30歳を過ぎて生活保護を受けることになるが、今度はそのうしろめたさに苦しむようになる。そんな絶望続きの中で生きていても、生まれ変わりたい、社会復帰したいという希望は持ち続けていた。そして、その想いがやがて出口につながっていく。

 本書には、少しでも早い社会復帰を望む著者に対して、難しい現実も書かれている。長い休息と障害者手帳の申請を勧めた主治医。生活保護の受給を勧め、患者として縛り付けた上、宣伝のために利用したクリニック。生活保護を切りたかった著者の手続きを阻止し、「精神障害者は働けない」と暴言を吐いたケースワーカー。冷静に書き記された著者の体験、そこにある事実からは、本来、社会復帰を後押ししなければならない人たちの在り方、そもそものこの国の制度、偏見…さまざまなことについて考えさせられる。

 ブラック企業での就労、貧困、自殺未遂、精神障害、生活保護など、社会の中にある見えにくい現実ばかりを扱った本書の内容は重い。でも、絶望の中にあっても決して希望を捨てず、後半、元編集者だった経験を活かせる職場と出合い、ゆっくりと「再生」していく著者の姿に、読み終えた時には少し清々しさが残る。

 自分が今いる状況によっても、感じ方はそれぞれ違うだろう。でも、いつか自分や知っている人が同じ立場になるかもしれない。さまざまな人に知ってほしいことが書かれた1冊だ。

文=三井結木