「完璧な事故」で終わるはずだった女流作家の怪死…貴志祐介「鍵のかかった部屋」続編の最新作はミステリーファン必見『ミステリークロック』

文芸・カルチャー

公開日:2017/12/29

『ミステリークロック』(貴志祐介/KADOKAWA)

 ミステリーの醍醐味はなんといっても「謎解き」の興奮。それを思う存分味わいたい人には、『ミステリークロック』(貴志祐介/KADOKAWA)を大プッシュしたい。
 貴志祐介さんの著書といえば『悪の教典』や『黒い家』などのサイコサスペンスものがまず頭に浮かぶかもしれないが、本書は謎解きをメインとする正統派ミステリー「防犯探偵」シリーズの最新作である。

 キレッキレの頭脳と幅広い防犯知識を持つ防犯ショップ主人・榎本径と、頭はいいはずなのにどこか抜けている美人弁護士・青砥純子を主人公に据え、奇想天外かつ大掛かりなトリックと緻密に計算されたアリバイに挑むこの「防犯探偵」シリーズ、2012年には『鍵のかかった部屋』のタイトルで、アイドルグループ「嵐」の大野智さんと戸田恵梨香さん出演でドラマ化されたので、ご存じの方も多いのではないだろうか。

 6年ぶりの新刊となる本書には、四本の短篇が収録された。
 うち、表題作である「ミステリークロック」は、設定からしてもうたまらない。

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 舞台となるのは岩手県盛岡市郊外にある山荘。館の主は、人気ミステリー作家の森玲子。誕生日パーティと称する集まりに招待された六人の客は、一癖も二癖もある人物ばかり。
 そんな最高のミステリー的シチュエーションに華を添えるのが、森玲子自慢の時計コレクションだ。

かすかなモーター音とともにキャビネット全体が南側に移動して、大きな凹みが現れる。
そこから、高さ70センチほどの陳列台が、ゆっくりと前にせり出してきた。
感嘆のどよめきが漏れる。
赤い毛氈の上に八つの置き時計が一列に並んで、照明を受けてきらきらと輝いていた。
(「ミステリークロック」より)

 貴重な和時計から、フランスの高級ブランド・カルティエの中でも「最も高価な宝飾品」といわれるミステリークロックまで、重要文化財級の時計が人里離れた山の上の一軒家に隠されていたのである。

 煌めく至宝を前に、森玲子の夫・時実玄輝が、パーティの余興として「価格の順位当てクイズ」の開始を宣言する。当たれば高価な賞品が贈られると聞き、ゲームに没頭する客たち。
 そして、一時間ほど過ぎようしたその時、山荘に女性の悲鳴が響き渡った。
 ゲームは、一転して命をかけた謎解きゲームに変わり、各人が己の無実を証明するために必死の推理を展開する。やがて、榎本は気づくのだ。鉄壁のアリバイに潜む小さな傷に。それを教えたのは、被害者が心から愛したある品物だった……。

 榎本と純子の軽妙な、というか、漫才のような推理合戦が繰り広げられる中、超絶トリックが少しずつ明らかになっていくパズルのような楽しさは、本シリーズならではの魅力だ。
 一旦は犯罪者の奇計が成功し、真相は人知れず闇に葬られるはずだった。だが、たった一人の天才的頭脳の持ち主が、針の先のようなほころびから全てを暴いていく……。

 このパターンが好みなら、大満足すること間違いなし。他の収録作も、全て短篇とはいえなかなかの歯ごたえなので、ホリデーシーズンの読書にはもってこいの一冊だ。

文=門賀美央子