将棋×バトルの超エンターテインメント! 貴志祐介の傑作ゲームミステリー『ダークゾーン』

文芸・カルチャー

2017/12/28

『ダークゾーン』上(貴志祐介/KADOKAWA)

「これぞ一気読み!」寝る間も惜しんで読んでしまったのが、12月21日に電子書籍化された『ダークゾーン』(貴志祐介/KADOKAWA)。将棋×バトルものということで、将棋の知識ゼロ、最近の「ひふみん」や藤井聡太くんのブームにあまりノれずにいた私ですが、そんなこと全く関係なく、ハラハラしながら読めた超エンターテインメント小説でした。
 将棋を知っていれば、もっと楽しめたかもしれないけれど、将棋好きだけではなく、「ゲーム好き」にも刺さる物語ではないでしょうか!

 プロ棋士を目指す大学生の塚田(つかだ)は、目覚めると暗闇の中にいた。ここにやって来るまでの記憶はない。周囲には異形に姿を変えられた仲間たち。そして自分は赤軍の王将(キング)として、17人の仲間たちの特性を活かし、敵である青軍の王将を倒さなければならない……!

 長崎県の「軍艦島」らしき場所。だが、太陽はなく月明かりと漆黒の暗闇が3時間ごとに入れ替わる謎の地帯。

 鬼土偶(ゴーレム)、火蜥蜴(サラマンドラ)、蛇女(ラミア)、聖幼虫(ラルヴァ)などなど、異形の姿になってしまった敵味方は、現実世界で関係のあった人たち。

 倒すべき青軍の王将は、因縁浅からざるライバル・奥本。塚田と同じくプロ棋士を目指し、熱戦を繰り広げる相手であった。

 様々なルールを即座に理解し、戦局を見据え、青軍の王将を倒さねば塚田たちは「消滅」する。一体どうして自分がこのような状況に追い込まれていて、なぜ戦わなければいけないのか。そして、「ダークゾーン」と呼ばれる「ここ」は一体何なのか。何もかも手探りのまま、わずかな情報と将棋で鍛えた「勝負勘」によって勝利を掴みとろうとする塚田。彼らは無事に元の世界へ戻れるのか!?

 一方、スリル満点の「ゲーム」の合間に、現実世界での塚田も描かれる。年齢制限が迫る中、プロになれないことに焦燥感や劣等感、苦悩を感じつつも、恋人の理沙(死の手――「リーサル・タッチ」としてゲームにも登場)と大学生らしい青春を過ごす。奥本は同じ大学に通っている友人だ。

 だが塚田は、一方的に好意を抱かれ、自分につきまとう後輩・水村梓から「理沙と奥本が付き合っている」というウワサを聞かされ、心の支えであった理沙への不信感が芽生え始める。

「ダークゾーン」での「ゲーム」に重きを置いた章と、現実世界でプロ棋士を目指す大学生としての様子を描いた章。それらが巧みに交錯し、ラスト、「ダークゾーン」の真実が明らかになる展開は、圧巻だった。

 本作の魅力はたくさんあるのだが、第一に「ゲーム」の設定が練り込まれているのがいい。複雑だが、巧妙にパワーバランスが考えられているので理解しやすい。「どういうことだっけ?」と、前頁に戻り説明を読まなくて済むので、ゲームの臨場感を疎かにせず物語に没頭できた。

 また仲間たちのネーミングも含め、ポイントを獲得したら昇格(プロモーション)ができるとか、火蜥蜴の炎は超強力技だが、発射後1時間は同じ攻撃ができず、ほぼ無力になるとか、その他もろもろの「ルール」に、ものすごくオタク心をくすぐられる。

 戦略系アクションゲームや、マス目上でキャラを動かしてバトルするタイプのRPGゲームがお好きな方には、たまらない設定ではないだろうか。

 ただ、もしそういった「設定」と「アクション」だけなら、私は「じゃあ映像で観たいな…」と思ってしまっただろう。
 私が一番ハマったのは、本作がしっかりと「小説」であったこと。つまり、映像では表現が難しい心理描写がしっかり描かれていることである。

 敵対する青軍の将の奥本は、現実世界では将棋で戦うライバル。そして恋人との関係を疑う相手だからこそ、非現実的な「ダークゾーン」での死闘も、一層緊迫感を持ち、読者は目を離せなくなるのだ。

 映像では表現できない心の内側まで克明に描かれ、現実世界での塚田や理沙、奥本の関係の「変化」と「ダークゾーン」でのバトルがリンクし、3時間程度の映画では決して描ききれない「深み」と「謎」、「複雑な人間模様」を堪能できる。そりゃ、面白いわ。熱くなって読みました。

 なお、同日にはTVドラマ「鍵のかかった部屋」原作の人気シリーズ(「防犯探偵・榎本シリーズ」)、4冊がまとめて一気読みできる電子書籍限定の合本版も配信されているので、本作とあわせて年末年始にゆっくり楽しんでみては?

文=雨野裾