結婚したら本当にそれでハッピーエンド?“女と結婚した女”である著者の、性にとらわれず、自分自身を生きるメッセージ

社会

2018/1/6

『ハッピーエンドに殺されない』(牧村朝子/青弓社)

 人生では、しばしば「結婚」がひとつのゴールに設定されがちだ。適齢期の男女には「いつ結婚するの?」という無遠慮な質問が投げかけられ、ある程度の年齢になっても一人でいると何か事情があるのではと勘繰られる。結婚した後も人生は続き、そこには楽しいことも悲しいことも起こるはずなのに。

『ハッピーエンドに殺されない』(牧村朝子/青弓社)は、そんな結婚=ハッピーエンドという価値観に違和感を持った著者によるエッセイ集だ。Web媒体「cakes」に2014年から連載中の、「女と結婚した女だけど質問ある?」の記事を厳選し、加筆・修正をしたものに書き下ろしを加えて書籍化された。2013年にフランスでの同性婚法制化を機に愛する女性と結婚した著者は、“同性婚した人”と扱われることで、自分自身が「人間を結婚により『めでたし、めでたし』って定位置に片付けてしまうおとぎ話を構成するパーツになってしまったよう」な気がしたという。

 そんな著者が手掛けたエッセイは、時に読者からの投稿に応える形で、時に自らの過去や内面と向き合う形で綴られている。その全てに共通しているのが、「正しいとされている価値観にとらわれず、自分自身を生きる」というメッセージだ。アドバイスはするものの、一貫した「決めるのはあなた」というスタンスが読者の背中を押す。

 例えば、「叔父が私のパートナー。後ろめたさが消えません」という投稿。これに対して著者はまず、自他分離(あなたはそうなんですね。でも、私はこうです)と「個全分離」(ああいう人がいる。でも、こういう人もいる)という、自分と人を尊重するための考え方を紹介している。そして最終的には、「たまたま『叔父とはパートナーシップを結ばないものだ』とされている時代と文化圏に、現代日本に生まれた。そう決められていても、その方がパートナーだって、自分で決めたんでしょう。じゃあ、それでいいんだと思うのよ」と、決められていても自ら決めていくことの必要性を話して締めくくるのだ。

「パフォーマンスとしてのハピネス」には思わずハッとさせられる。一人で本を読んでいたいのに、社会が期待する子ども像「友達と仲良くできる明るい元気な子」として振る舞ったり、結婚こそハッピーエンドという価値観に従いたくないのに、同性婚してうまくいっていることを発信したり。著者はそんな自らの経験を「誰かの価値観で正しいとされている赤いりんご」と「自分の信念を貫いて好きなものをつかみ取ったために、それが正解であるとアピールしなければいけない気になってしまう青いりんご」の例を挙げて説明する。そして言う。

「私はちゃんと、幸せと思えない経験にも向き合いたい。自分は幸せだというパフォーマンスで、ほかならない自分をだましてしまうことを、もうしたくない、と思うのです」

 思わず考えてしまわないだろうか。私の幸せは、幸せだと思い込んでいることは、ただのパフォーマンスではないか?と。

 2017年にパートナーの女性と「脱婚」、自身がミス日本ファイナリストに選ばれて以来お世話になっていた芸能事務所・オフィス彩から独立した著者。これらの決断に対して、心無い言葉を浴びせてきた人もいたという。それでも彼女は自分で決めて、人生の物語の続きを書き継いでいく。

 誰かが決めたハッピーエンドに従って満足したふりをするよりも、自分で決断してその結果に一喜一憂しながら生きていくほうが楽しいじゃないか。そう思わせてくれるエッセイ集だ。「正しいとされる価値観」にがんじがらめになって苦しい時、ぜひ手に取ってほしい。

文=佐藤結衣