“富士山”“打出の小槌”縁起の良いお菓子で年初め! 全国を駆け巡り1万種類の和菓子を食べたバイヤーが厳選

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更新日:2018/1/9

 寒さが強まり、温かい飲み物で暖をとる機会もグンと増える。そんなとき、喫茶の供があればさらに嬉しい。あなたの好みは、洋菓子だろうか、それとも和菓子だろうか。

『ニッポン全国 和菓子の食べある記 高島屋・和菓子バイヤーがこっそり教える郷土の和菓子500品』(畑主税/誠文堂新光社)の著者は、なんと元は辛党。お菓子と関わるようになったのは、入社した百貨店・高島屋の配属先が洋菓子部門だったのが、きっかけだそうだ。その後、願い出て和菓子部門へ異動。現在は、高島屋全店の和菓子担当バイヤーを務める。

 その土地ならではの、風土や歴史に密着した様々な和菓子や、作り手との出会いを機に、バイヤーの域を超え、和菓子を訪ね歩くことが著者のライフワークとなった。これまで47都道府県1000軒以上の和菓子店を訪問、1万種類以上に及ぶ和菓子を食べてきた。プライベートで和菓子のブログを立ち上げ「リアルな和菓子情報」を発信し続けている。本書はそのブログから、今でも和菓子製造が盛んな京都・鎌倉はもとより、全国選りすぐりの500品を書籍化したもの。

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 実際、この本を手にしてもらうとわかるが、1店舗1ページを割いてオールカラーで和菓子や店構えを紹介しているので、辞書のような厚みをもっており、図鑑のような見応えもある。和菓子のいわれや店主とのエピソードなども簡潔にまとまり、スラスラ読めて和菓子の知識も得られる楽しい一冊となっている。

 本稿では、著者厳選の500品のうち、“縁起の良い和菓子”をいくつかピックアップしてみた。

 東京・新宿区「いいだばし萬年堂」の「御目出糖(おめでとう)」(P.34)は、小豆と餅粉の蒸し菓子だ。祝い食の“赤飯”のように見えることから名付けられたそうだ。

 千葉・匝瑳市「鶴泉堂」の「初夢漬」(P.154)は、ちょっと驚きの“ナスの砂糖漬け”。完成までに1ヶ月以上要するそう。「新潟や山形西部でも見受けられる縁起菓子」とのこと。

 “なすび”とくれば、“富士山”も。山梨・南都留郡「金多留満(きんだるま)」の「富士山羊羹」(P.168)は、羊羹のなかの富士山が四季折々で表情を変える逸品。今の季節は「冬富士羊羹」だが、年末年始には羊羹に初日の出が浮かぶ「初日富士羊羹」が、本書によると100本限定で発売されるそうだ。今年、このおめでたい羊羹の入手を考えるなら早速12月のカレンダーにメモしておこう。

 富士山の和菓子は、もちろん静岡からもエントリー。富士宮市「藤太郎本店」の「富士のこけもも」(P.235)は、富士山にちなむだけではなく、「不老長寿の実とされていたコケモモ」の餡を用いて、仕上げた棹菓子。ひと切れカットするごとに現れる富士山の真っ白な頂に、冬富士の眺めを連想する。

 石川・金沢市「落雁諸江屋」の「福徳せんべい」(P.211)は、餅種を、打出の小槌や福俵といった縁起物の形に薄く焼き、そのなかに砂糖菓子を入れている。その昔、加賀藩の祝賀の際、創作されたそうだ。今では「迎春菓子」として欠かせないそう。

 他にも兵庫・明石市「藤江屋分大」の「めで鯛もなか」、宮崎・宮崎市「金城堂本店」の「運だめし」など、新春にふさわしいネーミングの和菓子が掲載されている。そして、創作和菓子の紹介の合間には、見開きでコラムがいくつかあり、「東北の四大郷土駄菓子」「伊勢餅街道」など、地方独特の和菓子文化にも触れ、和菓子の世界がさらに広がる。

 都心では、地方の有名菓子がデパートの諸国名産コーナーやアンテナショップに入荷する時代になり、また取り寄せも可能なものもあるが、本書は、ある季節のみ、現地でのみ、味わえる郷土菓子も多く紹介されている。まだ知らない、その土地の風土に根ざした和菓子を求めて出かけてみよう。

文=小林みさえ