忙しい毎日だからこそ見直したい台所仕事。アメリカ人料理研究家ナンシーさんの日本のごはん作り

暮らし

公開日:2018/1/10

『ナンシーさんの和の台所仕事』(ナンシー八須/ワニブックス)

 吹きすさぶビル風に身震いするけれど、自分を労わってあげる余裕も持てない。そんな日々を過ごしていませんか。忙しない都会暮らしをしていると忘れがちな大切なこと。埼玉県北西部、神川町にある古い農家には、昔ながらのていねいな日本の暮らしがありました。

アメリカから埼玉の農家の嫁に! 料理研究家のナンシーさん

 築80年以上の風格ある日本家屋に住むのは、今から30年ほど前にアメリカ・カリフォルニア州から嫁いだナンシー八須(はちす)さん。ナンシーさんの暮らしは、日本では多くの人が捨て去りつつある昔ながらのもの。台所には陶器や漆器、かつお節の削り器などの使い込んだ台所道具、そして旬の野菜が並びます。ナンシーさんはこの台所で、日々滋味に富んだ料理を作っています。

ナンシー八須さん。主に未就学児を対象に料理と英語を教える教室「Sunny-Side-Up!」を運営しながら、料理研究家として雑誌や本の執筆などで活躍。

毎日無理せず、楽しく続ける台所仕事

 ていねいに台所仕事をしておいしい料理をいただけば、日々を元気に過ごせそう。わかっても、ナンシーさんのように暮らすのは簡単ではありません。しかし、著書『ナンシーさんの和の台所仕事』(ワニブックス)の中で、ナンシーさんはいいます。

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「約30年前、夫と結婚して日本で暮らすと決めてから、この地でどうやって長く、無理なく生活できるか考えてきました。“お嫁さんだからすべての料理を作らなくては”だと、料理が楽しくなくなり、長続きしません」

 今や和食も達人のナンシーさんですが、最初から何でもできたわけではありません。旦那さんや仲良くなった魚屋さんや肉屋さんに教えてもらいながら、少しずつ習得していったのです。毎日続く台所仕事だからこそ、無理せず、楽しむ姿勢を大切にしています。

ナンシーさん流のだしの取り方

 「料理を楽しむこと」「完璧を目指さないこと」がナンシーさん流。まずは料理の基本を覚えましょう。ナンシーさん流のだしの取り方をご紹介します。

【だしの取り方】

 ナンシーさんの料理は、野菜がメイン。夫や友人たちが作る有機野菜は味が濃いため、それを活かすだしの取り方を心がけているそう。かつお節も、特別に忙しいとき以外はまるごとの本枯れ節を削り器で削ります。

・昆布としいたけ
10cm角の昆布2枚と、乾燥しいたけ4個を2 1/2カップの水に一晩つけ、こして使う。

・いりこ
天日干しのいりこを2 1/2カップの水に一晩つける。味噌汁やそうめんのつゆと相性のよいだし。

・かつお節とこんぶ
鍋に2 1/2カップと10cm角の昆布を1枚入れて火にかけ、沸騰直前にこんぶを取り出す。かつおぶしをひとつかみ入れ、弱火で8分煮た後、熱源から8分おき、こす。

好きなものを見つけて、探求することの大切さ

 本書を通して感じるのは、ナンシーさんが食材の命に感謝し、作り手や売り手を尊敬していること。そして、そのことに触れる台所仕事の時間を心から楽しんでいることです。農家の嫁と「Sunny-Side-Up!」を運営する料理研究家という2足のわらじを履くナンシーさんですが、伝わってくるのはただ料理を愛していて、幸せな気持ちでいること。

「自分の好きなものを見つけて、そこを入口にしていろいろと探求していくこと。それが何よりも面白いんです」

 忙しくても、好きなことに浸る時間を大切に。ナンシーさんにとっては、大好きな台所仕事が、自分を労わる時間なのかもしれません。

文=箕浦 梢