「時短仕事術」「高速PDCAメソッド」… スピードを重視しすぎている私たちに必要なこと

ビジネス

公開日:2018/1/12

『京大式DEEP THINKING』(川上浩司/サンマーク出版)

 誰もが忙しい今の世の中において、言うまでもなく時間はとても貴重なものだ。「時短仕事術」「高速PDCAメソッド」「超・圧縮時間術」… とにかく「スピード」が重要視され、「速いことが良し」とされている昨今、なかなか「深く考える」が難しくなっているのではないか。

『京大式DEEP THINKING』(川上浩司/サンマーク出版)は、そんな「深く考える時間」が日々手元にない方にも、現役の京都大学デザイン学教授が、読むと同時に「深く考える」ことを体感させてくれる1冊である。

「深く考える力をつけるには、深く考えるしかない」著者の結論は極めてシンプルなものだ。私たちはスピードと引き換えに、「深く考える」ということを疎かにしているが、それと同時に、考える力をつけるには、改めて考える時間を作るしかないと思いがちである。しかし、考える時間を作るために、時間の使い方を工夫したり、時間術を手に入れたりする必要はない。必要なのは「考えることの価値を知る」ことなのだ。

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■「頭の良さ=スピード」という誤解

 日常生活の場では、「頭の良さ=スピード」と誤解されている、と著者は考える。つまり、答えを出すのが早いからといって必ずしも頭が良いとは限らない、ということだ。

例えばこんなシチュエーションを考えてみてほしい。会議の場で、上司の問いかけに、Aはすぐに答え、Bはその次に答え、Cは「はい、考えてるんですが…」といつまでたってもはっきりしない。ここで「A、B、Cの3人で一番頭がいい人は誰でしょう」と問えば、AかBかはさておき、おそらく「C」という答えは圧倒的に少ないはずだ。しかし、いくら素早く答えても、その答えは的を射ていないことがある。何より注目したいのは、即答したAが、「深く考えた」とは限らない、ということだ。もしかしたら、脊髄反射しただけかもしれない。逆に、「はい、考えてるんですが……」と言ったきり答えないCが、嘘を言っていない限り、一番深く考えていることになる。

 もしかすると、いくら深く深く考えても答えが出ないかもしれない。思考の奥底まで深く進み考えた末に出した答えは、見当違いかもしれない。

 しかし、答えとは別に、「深く考える」ことそのもので生み出される「何か」はあるはずなのだ。これからの時代はそんな思考の「プロセス」にこそ「真の問題」や「新たな解決法」が隠れていて、価値がある。元AI研究者として、「深く考える」ことこそ、人間の個性であり一番の強みである、と著者は述べる。そして、それこそがこれから来るであろうAI時代に、人類に求められるスキルなのだ。

 忙しい毎日でも、少しだけでも立ち止まってみて、「深く考える」体験をしてみてはいかがだろう。

文=kisanuki