「ちはやふる」のキャラクターたちも夢中になった世界が、千年の時を超えてよみがえる! 最果タヒの言葉と清川あさみの絵で奏でる、現代版百人一首

文芸・カルチャー

2018/1/15

『千年後の百人一首』(清川あさみ最果タヒ/リトルモア)

 今、百人一首への関心が高まっている。ブームの火付け役となったのは、2008年から「BE・LOVE」(講談社)で連載されているマンガ、「ちはやふる」。競技かるたに没頭する女子高生の青春を描いた作品で、2011年にアニメ化、2016年には広瀬すず主演で映画化もされ、今年3月には完結編「ちはやふる -結び-」にも期待が高まっている。「ちはやふる」のヒットで、百人一首や競技かるたに興味を持った若い世代は多いだろう。

 ただ、興味を持っても百人一首の世界はなかなかにハードルが高い。まず、古語がすんなり頭に入ってこないので、一首一首の歌の意味を把握するのに時間がかかる。そして、多くの絵札には歌を詠んだと思われる法師や納言がシンプルに描かれているばかりで、どうにもときめかない。こんな調子で、百首を覚えきる前に挫折してしまう人は多いのではないだろうか。事実、私もその一人である。

 そんな私たちに百人一首の世界をぐっと身近に感じさせてくれるのが、『千年後の百人一首』(清川あさみ最果タヒ/リトルモア)だ。 アーティストの清川あさみが布や糸、ビーズで百の情景を描き、詩人の最果タヒが情感豊かな現代の言葉で百首を新訳する。そのコラボレーションがとても魅力的で、ページをめくりながら百人一首の世界に自然と惹きこまれていく。

 巻末にはそれぞれの歌が詠まれた背景や、詠み人についての丁寧な解説も収録されている。一首ごとに解説を読んで歌の意味を確かめてもいいが、まずは百の絵と言葉にじっくり浸ってから解説を読んで、まとめて歌の意味をかみしめるのもお勧めだ。

わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ…元良親王

 真っ赤な海に女性が半分浸かり、溺れかけているような清川の絵が添えられた一首。最果の新訳はこうだ。

「愛しています。
わたしはあなたを愛しています。
すべてが知られ、糾弾されて、嫌悪にさらされながら、
私は息もできないような苦しさの中、溺れ死ぬような心地でいます。

難波にある澪標は、今も波に打たれ続けて、
砕けて流され沈んでいくまで、
いつまでもそこにありつづけるという。
私は、あなたに会いたいのです。
砕けていくことがなんだというのだ、
流され沈んでいくのがなんだというのだ、
死んでしまうことがなんだというのだ、私はあなたを愛しているんだ。」

 解説を読むと、美男子で知られた元良親王が、天皇の皇后の一人である京極御息所との密通が噂になった時に詠まれたものだという。不倫がバレたにも関わらず、なんとも潔い愛の歌。元良親王の熱情が伝わってくる新訳だ。

あけぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな…藤原道信朝臣

 明けていく空の中、浮かび上がる建物を絶妙な色彩で表した、清川の絵。最果はこう言葉を添える。

「わたしたちの声だけが響くような、しずかで深い夜の底に、
ひとしずく、光が落ちて滲んでいく。
朝がくるんだ、見上げた先に、木々の影が、塀の白さが浮き上がる。
わたしたちを引き合わすのも、引き裂くのも、どちらも時の流れなんだね。
それなら時を、わたしは恨もう。
すべての夜はもう、明けなくったってよかったんだ。」

 恋する女性とのしばしの別れを惜しむ歌だ。病によって20代で夭逝したという藤原道信。新訳からは彼女の前で駄々をこねる若者の様子が伝わってきて、ほのぼのしてしまう。

 今も千年前も、歌に込められる人の想いは変わらない。本書を読み終えた後は詠み人たちが近しく感じられ、より百人一首の世界に興味がわくはずだ。今年の年末年始は、親しい人と百人一首に興じてみてはどうだろうか。

文=佐藤結衣