バブル入社組の憂鬱…就職のとき苦労しなかったツケが今になって!?

社会

公開日:2018/1/26

『バブル入社組の憂鬱』(相原孝夫/日本経済新聞出版社)

 バブル入社組は実力以上の優良企業に入社できたラッキーな世代と思われている。しかし、彼らがラッキーだったのは入社時と入社後のほんの数年。人生のピークは20代前半だったともいわれている。企業内人口が厚いため、管理職になれない人の方が多い。仮になれたとしても役職定年のため、年下上司の下で居心地を悪くしている人も数多くいるという。バブル世代は就職の時点ではたしかにラッキーだったかもしれないが、物心ついたときから不景気が常態だった時代に生きてきた世代とは違い、下り坂しか経験していない世代ともいえるのだ。

 そんなバブル入社組の状況を解説したのが『バブル入社組の憂鬱』(相原孝夫/日本経済新聞出版社)である。前半はバブル入社組が置かれている状況や周囲の評判、中盤にバブル入社組と前後の世代ごとの特徴、そして後半にバブル世代の強みが記述されている。興味深かったのは、世代ごとの特徴に関する考察だ。世代論としてある世代を一括りにすることに対する異論はあるかもしれない。世代よりも個人差の方が大きいと思われるからだ。しかし、著者によると「日本のように大多数の人間が、少なくとも制度上は平等な存在と認められ、ほぼ同質の価値観の中で生活を営んでいる社会」では「何らかの時代的共通体験がその世代に属する人々を特徴づける」という。諸外国のように身分や信仰上の違いが大きく、世代的な共通体験が存在しない社会では世代は意味を持たない。本書で分類されている世代には「団塊の世代」「新人類世代」「バブル入社組世代」「氷河期世代」そして「ゆとり世代」がある。世代の特徴は前後の世代からの指摘によって顕在化されるものだが、それぞれの世代から見える他の世代に対する考察がおもしろい。

 バブル入社組は、他の世代にはない特徴も持っている。一つは「コミュニケーション能力」の高さだ。コミュニケーション能力の高さは営業スタイルの違いにも表れていて、下の世代が論理やデータを重視するのに対し、バブル入社組は相手との関係を重視する。さらに「会社への依存心が強く」「愛社精神が強い」人も多い。上の世代のようにモーレツに働くわけではないが、同期との結びつきが強く、会社の方針に対しても会社がそういうなら、と従う傾向があるようだ。その点に関しては、仕事とプライベートを分け、会社に対して一定の距離を置いている氷河期世代以下と一線を画している。また、バブル入社組は「見栄を張りたがる」傾向があり「根拠なき自信」を持っている。著者は最後の「根拠なき自信」こそがバブル入社組の最大の強みであると主張する。年功序列や終身雇用制度が崩れつつあるこれからの社会では、やったことがないことに挑戦する意欲が求められると考えられるからだ。コミュニケーション能力が高いバブル入社組の中には人間関係を良好に運ぶ術を心得ている人が多く、感情コントロールや、適切な自尊感情、そして楽観性を備えているとされる。彼らこそ、近年注目されている「レジリエンス」を持つ世代だという。そのような傾向を持つに至った背景についての解説は本書に譲りたい。

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 バブル入社組は、日本での人口が多く消費も牽引している世代だ。本書は単なる世代論として読んでも、大変興味深いものがある。しかし、それだけで終わらせてしまうのは少々もったいないかもしれない。異なる世代の傾向を理解し自らの考え方や行動に生かすことができれば社会生活を送る上で大きくプラスに働くといえるからだ。

文=いづつえり