子供がほしい……。中年男が里子を“特別養子縁組”した末路とは?

出産・子育て

公開日:2018/2/1

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(古泉智浩/イースト・プレス)

 本書『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(古泉智浩/イースト・プレス)の前作は、『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』である。

 青春をこじらせ、親になる時期を逸してしまった40代の男。自分のやりたいことだけやって、趣味最優先の人生を送ってきたけれど、中年期を過ぎると、自分のためだけの人生が若いときほど面白くないことに気づく。ああ、何か足りない……。ぽっかりと心にあいた空白。このままだと、こじらせ中年として、もはや別にほしくもない趣味の品に惰性で金を投入し、ポチった趣味の品に囲まれて孤独死するんじゃなかろうか。そんなとき、猛烈に子供がほしくなる。しかし自分は中高年ど真ん中。間に合うのか。間に合わないのか。子作りタイムトライアルが眼前に立ちはだかる。そんなこじらせ中年のジタバタした心情を、『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』は、わりと無防備にさらけ出していた。

 正直、昔の彼女との間に出来た子供のエピソードとか、女性観とか、結婚や出産についての考え方とか、女の側からすると、怒気混じりの「?????」な部分も多いのだが、まあ、そこは漫画家としての彼の個性なので突っ込まないようにする。というか、「えっと、親になって大丈夫か!?」と危ぶまれてしまうような個性の持ち主が、不妊治療の苦渋を味わい、里子を迎え、常識的な人間かつ普通の親へと脱皮していく姿に「ううむ。ようやく長い青春が終わったな……」と感じ入るのが、『うちの子になりなよ』の読ませどころではなかったかと思う。その点では、サイゾーウーマンで連載中の「ヤリチン卒業!! 叶井俊太郎の子育て奮闘記」にも通じるんじゃないだろうか。改心(?)した男のパパぶりというか、人間的にどうなんだと思われていたヤツが、意外にも親として青臭く頑張っている姿を眺めて、圧倒的多数の常識人の側から「やれやれ、あいつもやっとこっち側来たか~」みたいな意味不明のパイセン意識を味わう喜びというか。

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 まあ、自分はどちらかと言えば、こじらせ中年側なので、特にパイセン意識はないのだが、『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』に続く『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』を読んで、人間には、普通の喜びというのがあるのだなあとつくづく感じた。今どき、「普通」などと言うと、色々差しさわりがあるのかもしれないが、やはり、「喉から手が出るほど子供がほしい」と願っていた著者が、縁を得て里子を特別養子縁組し、もう実親に返す可能性がある一時預かりの里子ではなく、本当に自分の家の子供になった時の安堵と拍子抜けするほどのあっけなさは、普通の幸福とはこういうものなのだとあらわしているように思う。

 本書の感想に、「意外と普通の子育て本だった」という読者からの声があったが、その普通さにがっかりするか、普通さにたどり着くまでの背景を見て感慨深く感じるかは、読者次第ではないだろうか。無論、どっちが正しい読み方とかそういう話ではない。子育ては、良くも悪くも、人間から青臭い自意識とかトガった個性を奪い、レベルの差こそあれ、フツーのお母さん、お父さんにしていく。『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』では、そのプロセスに、里子、特別養子縁組というトピックが付け加わっているだけだ。普通の親子の日常が持つ幸福感が、まろやかに伝わってくる本書、こじらせ中年には是非読んでほしい。もちろん、既にそこを卒業したパイセンにも。

文=ガンガーラ田津美