“善人”はなぜ殺されたのか? 生活保護についての議論が高まる今こそ読みたい、中山七里の社会派エンターテインメント

文芸・カルチャー

2018/1/31

『護られなかった者たちへ』(中山七里/NHK出版)

 昨年12月の見直しで、約7割の世帯で受給額が引き下げられることが決定し、あらためて議論の的となっている生活保護制度。人気作家・中山七里が1月23日に刊行した新作『護られなかった者たちへ』(中山七里/NHK出版)は、この制度の限界を鋭くついた社会派ミステリーだ。

 物語は一人の“善人”の死から幕を開ける。仙台市内の古アパートの空き室で、奇妙な死体が発見された。手足を拘束され、口をガムテープで塞がれた男の死因は「餓死」。何者かに拉致された後、水も食料も与えられず放置されていた。調べによって遺体の身元が判明。三雲忠勝、仙台市の福祉保健事務所に勤務する人物だった。職場での評判はすこぶる良好で、怨まれるような人ではない、と部下たちは口を揃える。

 ほどなくして第二の事件が発生。清廉潔白で知られる県会議員・城之内猛留が行方不明となった後、森の中の小屋で発見されたのだ。城之内も三雲と同じように餓死させられていた。トラブルとは無縁の善人はなぜ、残酷な手口で殺されたのか? 事件の謎を追う県警捜査一課の刑事・苫篠は、やがて二人の間にある共通点に気がついた。一方、約8年の刑務所暮らしを終え、社会復帰を果たしていた男・利根には、どうしても見つけ出したい相手がいた。自分が刑務所に入ったことに因縁のある人物。模範囚となり刑期を早めたのも、その男を探すためだ。苫篠の捜査と利根の人捜し。2つのストーリーは並行して進展し、興奮のクライマックスへとつながってゆく。

 2017年12月の時点で、生活保護を受給している世帯は全国で164万世帯。これは過去最大の数字だという。本作はデータの推移として語られがちな生活保護の実像を、血肉の通ったエピソードとともに多面的に描き出している。限られた予算のなかで苦闘する保健福祉事務所員、制度を悪用して不正受給をたくらむ悪党、生活保護を受けながらも娘を塾に通わせるためひそかにパートに出る母親、世間に申し訳ないと受給を拒む老人――。貧困が生みだすいくつもの叫びが、読者の胸をえぐることだろう。

 中山七里といえば、“どんでん返しの帝王”の異名をもつ作家だ。本書も結末にはあっと驚く仕掛けが施されているが、それが物語全体を貫くテーマと密接に結びついているのにも注目したい。社会福祉制度はどうあるべきなのか。この作品は読者それぞれに問いかける。今読むべき、硬派で切実なエンターテインメントである。

文=朝宮運河