不動産業界の闇をさらけ出すマンガ『正直不動産』が面白い!

マンガ

更新日:2018/2/19

『正直不動産』(大谷アキラ/小学館)

 私事で恐縮だが、2年前、人生で初めて不動産屋を訪れ、東京で部屋探しをした。

 予算もそれほどなく、「不動産屋」とは一体どういうものか、現状を全く理解していなかった筆者は、さぞ騙しやすい客に見えたことだろう。

 結局、貸す意思のない「おとり物件」にいくつも引っかかり、不動産屋に来店するものの「すみません。そちらの物件、先ほど決まってしまいまして……。代わりにこちらはいかがですか?」と別の物件を紹介されるパフォーマンスに何度も遭遇した。

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 不動産営業は、客に不利なことは話さない傾向にある。借りる側も、法律含め、生じやすいトラブルをできる限り把握しておいた方がいい。

 そう感じて以来、様々な不動産関係の書籍を手にしたのだが、中でも不動産業界の闇を曝け出したマンガ『正直不動産』(大谷アキラ/小学館)は断トツで面白く役に立った。

 本書の主人公は、登坂不動産のエース営業マン・永瀬財地・35歳。

「千三つ」と呼ばれる、正直者がバカを見る、嘘を嘘で塗り固めた世界で、共感性の高さと一言多い性格を生かし、言葉巧みに客を誘導し、成約を取り続けている凄腕だ。

 しかし永瀬は、とある地鎮祭で元々あった石碑を勝手に壊して以来、誰の前であろうと本音が勝手に口をついて出るようになり、嘘がつけなくなってしまう……!

 不動産屋の営業で嘘をつけないのは致命的。その日以来、永瀬は「正直営業」として奮闘するも、同僚に客を奪われ、昇進を取り消され、踏んだり蹴ったりの事態に陥る。

 だがそんな彼のお陰で、救われた客もいる。

 永瀬の下で働く、新卒の新入社員・月下咲良。彼女が初めて担当した客は、4月から女子大生になる娘とその父親。月下は最上階に大家さんが住む、オートロックのマンションの5階を、破格の家賃で見つけ紹介する。

 永瀬は上司に促され、契約の場に立ち会うのだが、そこで思わず

こんなクソみたいなオーナーの物件には、金をもらったって、住まないけどな。

 と、見抜いていた真実を口が勝手に話し始めてしまうのだ……!

 何でも彼によると、相場に比べて安すぎるのは、必ず理由があるとのこと。実際このマンションは備考欄に「交代多し」と記入されており、多くの部屋で1年のうちに4度も入居者が変わっていた。

 永瀬は、オーナーが破格の家賃で入居者を募り、若い女性ばかり入居させ、自らストーカーを装い、帰宅と同時に無言電話をかけ、早く出ていくように嫌がらせをしているのではないかと予想していた。

 またあらかじめ、部屋に安っぽいカーペットや汚いカーテンを掛けておき、「原状復帰」を盾に敷金を返さず、儲けている事実も指摘。

 それを聞き、父親は怒って出ていってしまう。だが、後から、自分が損をしてでも正直に真実を伝えた永瀬に感謝し、もう一度部屋探しを依頼してくるのである――。

 本書は他にも、一見、相続税対策で有利になりそうなアパート経営のリスクや、マンション売却の際の囲い込み、店舗契約の裏側がたっぷりと描かれる。

 生い立ちに事情があり、嘘だらけの不動産で「カスタマーファースト」を掲げ、営業として奮闘する部下の月下や、利益のためなら手段を選ばない永瀬のライバル・桐山とのやりとりも、実にリアルで読み応え満載だ。

 不動産屋と全く関わらずに生きていくのは難しい。ぜひ本書を手に取って、不動産屋の事情や裏側を知り、人生に役立ててほしい。

文=さゆ