「不謹慎狩り」の正体…「空気読め」が猛威をふるう日本

社会

更新日:2018/2/26

『目くじら社会の人間関係(講談社+α新書)』(佐藤直樹/講談社)

 2016年4月の熊本地震のときにネット上で起こった、「不謹慎狩り」と呼ばれる一連のバッシング騒動を憶えているだろうか。義援金を寄付したことをSNSで報告した著名人が、「大変な状況にある被災者を利用して売名行為をしている」などと批判され“炎上”したことも問題となった。インターネットの普及により誰もが匿名で容易に発言できるようになったことが原因であると考えられているが、そもそもこのような「オカシナ」問題が発生するのは、日本独自の精神性に起因する部分が大きいという。

 ネット時代の到来で、一億総「目くじら社会」となってしまった日本には、何とも言えぬ息苦しさを感じる。日本社会が窮屈になってしまった原因を解き明かし、気楽に世間を渡る術を説く新書『目くじら社会の人間関係(講談社+α新書)』(佐藤直樹/講談社)をご紹介したい。著者の佐藤直樹氏は、日本独自の「世間」の研究の第一人者である。

■「世間」は日本にしか存在しない

 東日本大震災や熊本地震の際に、海外のメディアは「こうした災害時であっても日本では略奪や暴動が発生しない」と、こぞって称賛した。日本がこのような面で世界から見ると特別なもの(私たちはごく当たり前に感じていても)に映るのは、「世間」は世界中を探しても日本にしか存在しないからだと著者は説く。

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 日本には海外に存在しない「世間」があり、日本人はそれにがんじがらめに縛られているため、略奪や暴動を起こせない。反対に海外では「世間」のルールが存在しないため、災害などで警察が機能せず「法のルール」が無効となったときに、直ちに略奪や暴動などの違法行為に結びつきやすいのだ。この「世間」は、英語圏はおろか、同じ儒教圏の中国や韓国なども含め、現在はどこにも存在しないという(過去ヨーロッパにも「世間」が存在したことや、それが消滅した経緯も本書では解説されている)。

■出る杭は打たれる日本。有名人の炎上から考える

 略奪や暴動が起こらない理由が「世間」によるものならば、「世間」とは良いシステムであると感じてしまいそうになるが、「世間」は実に厄介な側面も多く併せ持っている。冒頭に述べた著名人の寄付に対するバッシング以外にも、震災後に笑顔の写真をSNSにアップした女優が「不謹慎だ」と批判されたりと、「自粛ムード」の中では、ありとあらゆる「不謹慎狩り」が猛威をふるっていた。熊本市内に住む女性が震災後に投稿した「ビールなんか買いに行ったら、こっち(熊本)の人に『不謹慎』って言われて噂が立つけん」という呟きが、この一連のバッシングがいかに病的であるかを物語っていると話題になった。

 自腹を切って寄付をする者がバッシングされるなんてことは、「世間」のない海外ではまず考えられないと著者はいう。その原因は、日本の「世間」にあるのだ。「自粛ムード」の中でKY(空気読め)と言われないために、日本人は「世間」の空気に対して常にアンテナを張っていなければならないのだ。

 上記以外にも、「犯罪率が低く自殺率が高い日本」「アイドルとヤクザに権利はあるか」「浦和レッズの聖地で分かること」など、著者独自の鋭い視点で、津々浦々にわたって「世間」に支配された窮屈な日本社会の現状が解説されている。「目くじら社会」を飄々と生き抜くために、現代日本人必読の1冊といえよう。

文=K(稲)