読みやすい・分かりやすい・おもしろい! 三拍子そろった『古事記』入門

文芸・カルチャー

公開日:2018/2/7

『絵物語 古事記』(富安陽子:文、山村浩二:絵、三浦佑之:監修/偕成社)

「稲羽の白うさぎ」「海幸彦と山幸彦」「天の岩戸」などなど、『古事記』を読んだことがなくとも、『古事記』に由来する言葉を「一度も聞いたことがない」という方は、少ないのではないだろうか。

 マンガ『八雲立つ』(樹なつみ/白泉社)や東京都の目黒区にある「八雲」という地名は、『古事記』の中に出てくる歌からとられていたりと、『古事記』を知れば、日常生活のなにげない瞬間に「あ、これってそういう意味だったのか」と気づくことも多くなるはずだ。それほど、『古事記』の世界は案外、身近にあったりする。

 だが、『古事記』は猛烈に読みづらい。

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 学生時代、史学科に在籍していた私は『古事記』の原典を読むという講義を受けたのだが、めちゃくちゃつまらなかった思い出がある。オール漢字なので読むのが大変だし、当て字のような表記も多いので、まるで暗号のようだった。

 内容も現代人には「?」になる展開が多くあり、当時は全くハマらなかった。

 しかし、その苦い思い出を払拭してくれたのが本作『絵物語 古事記』(富安陽子:文、山村浩二:絵、三浦佑之:監修/偕成社)である。圧倒的に、分かりやすく、読みやすく、面白かった。「昔話」のように『古事記』の世界観が語られるので、大人も子どもも楽しめる一冊となっている。

 また、原典の「良さ」を損なわないよう、監修がしっかりされている一方で、現代人にも共感できるよう「神々の人間らしさ」が丁寧に描かれているのもよかった。「神」なのに、完璧超人ではなく、失敗したり、乱暴者だったり、弱かったりする「人間くささ」は、『古事記』の魅力の一つと言っても過言ではない。

 文章の奥ゆかしい平易さや、分かりやすい構成はもちろんのこと、全ページに描かれている国際的アニメーション作家・山村浩二さんによる「挿絵」が『古事記』の世界をさらに魅力的に、分かりやすく表現している。

 黄泉の国の住人になってしまった妻イザナミの籠る御殿を、「見てはいけない」と言われたのに覗き見してしまい、その変わり果てた姿に驚き、逃げ帰る夫イザナキのシーン。

「くさり、くちはて、うじのわいたむくろ」となったイザナミのイラストも、おどろおどろしく、どこか愛嬌のある絵柄なのだが、そのイザナミの放った追手から逃げるイザナキの「躍動感」や、追手のヨモツシコメや雷神たちが迫り来る描写には、アニメーション作家ならではの「疾走感」がある。

 本作で描かれているのは全3巻からなる『古事記』の上巻(第一巻)まで、神話の出来事を絵物語としてまとめている。「八雲」の由来になった「スサノオのヤマタノオロチ」のお話や、『鬼灯の冷徹』(江口夏美/講談社)にも出てくる「コノハナサクヤビメとイワナガヒメ」の物語も載っているので、マンガやアニメなどの「元ネタ」を知る機会にもなるのではないだろうか。

 また、『古事記』を読もうとしたけれど、挫折してしまった方にもおススメしたい入門書である。

文=雨野裾