広がり続ける「2.5次元ミュージカル」―年間300本を観た著者の思い

エンタメ

2018/2/7

『2.5次元舞台へようこそ ミュージカル「テニスの王子様」から「刀剣乱舞」へ」(おーちようこ/星海社)

 近年、漫画やアニメを題材とした「2.5次元ミュージカル」が人気を博している。本書で引用されているデータに基づくが、ぴあ総研による「2015年の2.5次元ミュージカル市場規模推計」によれば、同年の2.5次元ミュージカルにおける市場規模は約103億円。前年比10.2%増の成長をみせたほか、公演タイトル数は123本、公演回数はのべ1660回といずれも成長していて、年々、その認知度も高まってきている。

 王道の2.5次元ミュージカルが人気を博す一方では、宝塚歌劇団がアニメやゲームを題材にした作品を上演し、日本の伝統芸能である歌舞伎でも「スーパー歌舞伎II『ワンピース』」が登場するなど、大きなくくりとしての「2.5次元舞台」の世界も広まっている。

 そんな「2.5次元舞台」に魅了された著者・おーちようこさんによる『2.5次元舞台へようこそ ミュージカル「テニスの王子様」から「刀剣乱舞」へ」(星海社)が出版された。本番やゲネプロ(公開稽古)も含めて、ときに年間300本を鑑賞したという著者の思う「2.5次元舞台」の魅力に迫ってみたい。

 さて、耳なじみのない読者に向けて、改めて「2.5次元舞台」とは何かを紹介していこう。2014年3月に発足した一般社団法人「日本2.5次元ミュージカル協会」によれば、その定義は「2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元舞台コンテンツの総称」とされている。

 本書でその始祖とされているのが、許斐剛原作の漫画『テニスの王子様』を舞台化した「ミュージカル『テニスの王子様』」である。

 2003年~2010年に1stシーズン、2011年~2014年に2ndシーズンを完結させ、現在は3rdシーズンを上演中の「ミュージカル『テニスの王子様』」は、コミックス全巻を舞台化した唯一の作品であるという。また、若手俳優の登竜門としても知られる同作は、城田優や斎藤工、小越勇輝らを輩出した。

 以降も『弱虫ペダル』や『黒子のバスケ』『刀剣乱舞』など数々の漫画やアニメ、ゲームを題材とした舞台が上演されているが、本書の第8章「2.5次元を愛する受け手の視点」で著者は、観客のひとりとしてみずからの思いを吐露している。

 著者が公言するのは、自分が応援しているコンテンツや俳優といったいわゆる“推し”には積極的に対価を払うということ。「だって、そのために働いているのだから」というほどの愛をもって宣言しているが、そこには著者なりのちょっとしたドラマがひそむ。

 エンターテインメント界でライターを続けている著者であるが、東日本大震災が発生した直後、あるお笑い芸人の和やかなインタビューをまとめようとしたところ、楽しかった現場の空気を上手く原稿にまとめることができなくなってしまったという。

 心の中で「こんな時に楽しい記事を書いてもいいんだろうか?」と悩んでいたところ、救われたのが舞台。当時は電力供給の不安や劇場の施設の耐震性などによる問題のほか、倫理的な判断から中止する公演があった一方で、「こんな時だからこそ幕を開けるのだ」という舞台もたくさんあったそうだ。

 著者はその経験から「大好きな人たちが舞台に立つなら観に行こう、客席が私ひとりだったとしても、拍手を送ろう、金を使おう」と思い立ち、現在のように「2.5次元舞台」の世界の虜になったという。

 本書は広がり続ける「2.5次元舞台」の概況を伝えるのみならず、著者の愛がこもった一冊である。日本発信のコンテンツとして昨今は海外でも上演されるケースもあるが、著者の視点から見る「2.5次元舞台」の世界をのぞいてみてほしい。

文=カネコシュウヘイ