数学は「情緒」の学問!? 老数学者と天才小学生が繰り広げるヒューマンストーリー

マンガ

更新日:2018/3/12

『はじめアルゴリズム』(講談社)

 突然だが、あなたは「数学」が得意だろうか?

 筆者は数学が大の苦手である。サイン・コサイン・タンジェントなどの単語を聞くと、赤点をとった記憶が蘇り、冷や汗をかいてしまうほどだ。

 だが、世の中には数学が必要な職業はたくさんある。生活の基盤を支える技術に数学が関わっていることも想像はつく。

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 しかも、数学が得意な人はそこにロマンや美しさを見出すらしい。

 そこで今さらながら、数学の魅力を少しでも知りたいと思い、「数学がちょっとやりたくなり世界の見え方が変わってくる」と銘打たれているマンガ・三原和人の『はじめアルゴリズム』(講談社)を読んだ。

 本書は数学を題材にしたヒューマンストーリーだ。

 舞台は米作島という小さな島。その島で、かつて「天才」と言われ、テレビでも活躍していた島出身の老数学者・内田豊が講演を依頼され、数学とは何かを語る場面から物語は幕を開ける。

 だが、ずいぶん前に隠居した数学者の講演など、島の人間は聞こうともしない。

 内田は講演途中で「キサマらにはわかるまいっっ!!」と、怒って話すのをやめてしまい、その足で、今はもう廃校となった母校の中学へ向かう。

 そこで彼は、かつて授業を抜け出し、夢中になって壁に書いた数々の数式が、50年もの間消されずに残っているのを見つけ、懐かしく眺める。

 ……が、次の瞬間衝撃が走る。

 なんと、未完成のまま投げ出した式が、何者かの手により完成していたのだ。

 恐らくラグランジュの平均値の定理やアーベルの定理と同じ考え方を使ったであろうと思われる、鳥や花などの絵が入った不思議な数式により、式は完成を遂げていた。

「天才のようでありまるで阿呆……」内田はそんなことを思いながら外に出ると、木の下で、独自の記号を使い、見たことのない数式を楽しそうに書き続ける少年と出会う。

 彼は、内田など目に入らぬといった凄まじい集中力で、雲の運動や木の枝の分かれ、水の波紋の伝わり、トンボの翅脈を式で表現し、世界を解こうとしていた。

 少年の名は、関口ハジメ・小学5年生。

 ハジメを「天才」だと確信した内田は、彼を導くのが自分の数学者としての最後の仕事だと宿命を感じ、彼の世界を外へ開くため、自分が暮らす京都へ連れて行こうと、両親をの説得に向かうのだが――!?

 本書で印象深かったのは、数学にとって重要なのが「情緒」だと語られる点だ。

 内田が、ハジメのお姉さん的存在で、アイドルを目指すヒナに、

美しいものを美しいと感じるこころの目
情緒とは「世界」と「自分」の間に通された道のようなものだ
情緒を通して「問い」が開く

 と語りかけるシーンは、心にしみ入るものがあった。

 また、有名なフェルマーの最終定理がほぼ文章であるように、数学で重要なのは「数」ではなく「イメージ」で、いかに「数学的空間」を構築しその中を自在に動き回るかが、数学の「考える力」だと説明するところも、数学嫌いの筆者にとっては、目から鱗であった。

 数学は、ただ公式を当てはめて解を出すだけでなく、そこに至るまでの過程に様々なロマンや、また逆にリアル、そして心の機微に触れることができる学問なのかもしれない。

 数学を通して、世界を全部知りたいと切望するハジメと、一度数学から距離を置いたものの、ハジメと出会い、道を照らす灯になろうと再び熱を取り戻した内田。

 彼らがこれから読者に、どんな情緒あふれる素敵な世界を見せてくれるのだろうと、楽しみで仕方がない。胸の高鳴りが止まらない物語だ。数学嫌いな人も、そうでない人も、ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ