山崎賢人主演で映画化の『羊と鋼の森』。書店員に愛される作家・宮下奈都が生み出す、心温まる世界とは?

文芸・カルチャー

2018/2/16

『羊と鋼の森』(宮下奈都/文藝春秋)

 2018年6月8日(金)に公開が予定されている映画『羊と鋼の森』。主演を山崎賢人が務め、三浦友和や上白石萌音・萌歌姉妹、鈴木亮平といった錚々たる顔ぶれが一堂に会することで話題を集めている。

 そんな映画の原作となったのが、同名タイトルである『羊と鋼の森』(宮下奈都/文藝春秋)だ。本作は第154回直木賞の候補となった作品。惜しくも直木賞の受賞は逃してしまったが、紀伊國屋書店による「キノベス!2016」第1位、『王様のブランチ』による2015年ブランチブックアワード大賞、第13回本屋大賞に選ばれるなど、非常に高い評価を受けた。

 本作は「ピアノ調律師」を主人公にした物語。放課後の体育館でグランドピアノが調律されている様子を目にした主人公・外村(とむら)が、自身も調律師を目指し、その世界の奥深さを知っていくというストーリーだ。

 そこで描かれるのは、静かなる情熱。外村は決して自己主張がうまいタイプではない。そして、調律師として類まれなる才能を有しているわけでもない。それでも、自分が選んだ道を突き進もうとする。それがいかに美しいことなのか。時に傷つきながらも手探りの状態で歩もうとする外村の姿は、読み手に大きな感動をもたらしてくれる。

“才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”

 “才能”とは、いったいなにか。その象徴となるのが、作中に登場する双子の姉妹、和音(かずね)と由仁(ゆに)の存在だろう。双子という同一性を持ちながらも、少しずつ明らかになる演奏技術の差。やがて動かなくなる指。ともすれば、相手の才能に嫉妬することにもなるであろう状況下で、この双子の姉妹は実に素晴らしい選択をする。それを目の当たりにした時、才能の有無などに振り回されるのではなく、それでも生きていくという上述の言葉がスッと胸に沁みてくるだろう。

 著者の宮下は、書店員に非常に愛されている作家だ。その温かく優しい作風は多くの書店員を魅了し、「売りたい!」と思わせてきた。そして、満を持して、本作で本屋大賞を受賞したのである。過去にインタビューをした際、宮下自身もそのことに触れ、何度も繰り返し書店員への感謝の意を述べていた。話しながら涙ぐんでいた姿は忘れることができない。

 人の心を動かすことのできる作家。宮下奈都はまさにそんな作家だろう。だからこそ、このような優しい物語を生み出すことができたのだ。宮下の代表作となった『羊と鋼の森』。映画化のタイミングにあわせ、ぜひその世界に触れてもらいたい。

文=五十嵐 大