「プラダを着た悪魔」「SATC」…ファッション業界で活躍し続ける女性の人生
公開日:2018/2/17
パーソナルショッパーという職業をご存じだろうか。欧米では古くからあるサービスで、高級百貨店や専門店に常駐し、顧客の好みやライフスタイルに合わせて商品を見つけ出し、コーディネートを提案する、主にファッションの買い物を手助けする仕事。持ち場が決まっている販売員と違い、顧客の幅広い要望に応えるため、さまざまな情報収集が必要とされる。日本でも今はこのサービスを取り入れている百貨店があり、また、パーソナルスタイリストという名で活躍する人の話も聞くようになってきた。
『人生を変えるクローゼットの作り方 あなたが素敵に見えないのは、その服のせい』(ベティ・ホールブライシュ&レベッカ・ペイリー:著、野間けい子:訳/集英社)の著者、ベティは、NYマンハッタンの超高級老舗デパート、バーグドルフ、グッドマンで40年以上に渡り、パーソナルショッパーの第一線にいる女性。なんと、90歳になる今でも、週5日、出勤しているそう。本のタイトルだけを見ると、洋服のコーディネートの指南本?と思いがちだが、そうではなく、1人の女性のドラマティックで深い人生の物語である。
90歳にして現役のベティだが、働き始めたのは40代。それまで他の仕事をしていたわけではなく、働くこととは無縁の生活を送っていた。本書の前半には、洗濯係や料理人がいる裕福な家庭で育った少女時代、NYのハンサムな御曹司との恋、優雅な結婚生活、2人の子供の出産、すれ違いと結婚生活の終焉、自殺未遂、精神病院への入院…と、華やかな日常と、その裏にあった孤独や苦悩が綴られている。幼少期から上質で洗練されたものに囲まれ、自分なりのこだわりを持っていた彼女が、ファッションの仕事に導かれたことは必然、と感じるのも前半だ。
後半は、ファッション業界で現在の天職を手にし、超一流になるまでとなってから現在の姿までが語られている。今も毎朝必ず、開店前に各階を歩きまわり、全フロアを知り尽くした上で、顧客1人ひとりの高い要望に耳を傾け、似合う商品を選び出し、着こなしのアドバイスをしているベティ。今や三世代にわたる顧客ももつという彼女が、いかにずばぬけたスタイリング力を持ち、たゆまぬ努力を続けていることがうかがえるエピソードが満載だ。
仕事で一番大切なのは「聞く力」といい、時には母親役まで担い、さまざまな形で悩みに応える。別名、買い物セラピスト。顧客に自信をもたせ、幸せな気分になってもらうことが自らの役割としながら、「クローゼットを着飾らせない」がモットーで、必要と思わないものは勧めない。常に気を遣う仕事でありながら、その中でも自分らしさを見失わない彼女の姿勢からは、教えられることも多い。
ベティには、映画やテレビドラマなどで使用する服を探す衣装デザイナーやスタイリストとの仕事もあり、「プラダを着た悪魔」や「セックス・アンド・ザ・シティ」などにも関わっていたという。ファッションに関する描写や、有名デザイナーやセレブの名が多数登場する本書は、その世界が好きな人には特におすすめの一冊だが、度々の挫折を経験しながらも、活き活きと人生を送る姿、人をハッピーにし続ける姿には、きっと多くの人が元気をもらえることだろう。
文=三井結木
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