さすが現場の臨場感。泥棒の性癖に人間の悲しい性を見つつ

公開日:2012/2/29

現場刑事の掟

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : イースト・プレス
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:小川泰平 価格:800円

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高校相撲部から先生に薦められて警官になった著者。警察に入る人間の多くは「殺人課」担当になることを夢見るのだという。著者も例に漏れなかったものの、長年担当したのは「泥棒専門」。地味ながらもこの部署の検挙率が国の警察の犯罪検挙率の支柱となっているから、いやでも実績を上げていかねばならないハードな部門だ。

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読み始めてからばんばん警察用語が飛び交い、読者は一気に『現場』に連れて行かれてしまう。泥棒の性癖がおもしろい。家宅侵入すると、必ず冷蔵庫を漁りビールを飲む泥棒。逆に緊張から必ず脱糞してしまう泥棒(そしてトイレから「足」がつくんだそうで)。盗るものがないことに腹を立て、冷蔵庫の卵を全部壁にぶつけて帰る泥棒。女性の下着を物色し、枕と布団で手製ダッチワイフまで作ってしまう泥棒。こうしてみると、犯罪者というのは人間の性癖の最も極端なところを見せてくれる類の人々なのだと、不謹慎にも関心してしまう。

彼らが縦横無尽、誰にも遠慮せずにアイ・ラブ・ミーのゴーイングマイウェイのまわに人の迷惑を顧みず生きてゆくのとはあまりにも対照的に、警官や刑事は全ての場面で「我慢する」のが仕事だ。その忍耐力、超人的。タバコの火ひとつ出せずにする張り込み。組織犯罪の捜査協力者を獲得するための時間をかけた接近。とうとう逮捕に至っても、取調室で数百件の余罪の調書を取らなければ帰れない勤務…。彼ら自身ももちろんのこと、彼らの家族の人生というのはどんななんだろう、と心配してしまうほど、その職に奉じる姿は心打たれるものがある。

ちなみにスペインでも日本の警察の優秀さは定評が。バスク州などは「日本の警察はなぜにあれほど優秀か」と探り、30年前から武道を州政府の警官たちに学ばせているという。改めて、日本の安全を支えている人々に深く感謝の1冊。ユルイ本が多い昨今、警察たたき上げの著者のみなぎる自信が、まばゆい。


警察の裏事情を語る本も多かれど、著者の筆力は◎。小説みたいな場面がたくさん

余罪数百件の泥棒と刑事の取調室。膨大な時間を思うと、くらくらしますね

推理小説にもかかせない「聞き込み」の作業。知らない人から話を聞くというのは実際大変な仕事 (C)小川泰平/イースト・プレス