これが本屋の生きる道!! 書店現場の知恵と情熱を追う!

文芸・カルチャー

公開日:2018/2/26

『「本を売る」という仕事: 書店を歩く』(長岡義幸/潮出版社)

 私が子供の頃には、近所に個人経営の他にチェーン店を含めて6軒の書店があった。それが今では書店に行こうと思うと自転車かバスで30分はかかり、行っても目当ての本が入荷していなかったりするため、もっぱらネット通販を利用するか電子書籍を購入するようになってしまった。だが、可搬性に優れ置き場所にも困らない点で便利な電子書籍の登場時に私が期待していたのは、雑誌連載された作品を単行化するさいや、愛蔵版が出るたびに内容が改変されていたりするのを同時収録してくれるような新しい本の形だったのに、同人誌ではアップデートや追加パックといった形態があるものの、商業出版では聞いたことが無い。それならば好きな作家の作品などは、実体のある本の形で欲しいと思う。しかし、『「本を売る」という仕事: 書店を歩く』(長岡義幸/潮出版社)によれば2017年7月現在、新刊書店の無い自治体が全国に420市町村・行政区にのぼり、新しい店舗が1軒できても5軒が消える勢いで書店が無くなっているという。

 本書を読むと現在の出版不況は、出版産業の自業自得という感が否めない。90年代はじめにバブルが崩壊しても出版産業は成長を続けたため、「出版は不況に強い」などという言説が流布していた。ところがそれにはカラクリがあり、新規に書店が開店すると取次会社が初期在庫の支払いを数ヶ月先延ばしして、大手チェーンの大型書店においてはそれが数年単位ということもあったという。つまりは、「見せかけ」の成長である。一方、新規参入しようとする書店が取次会社と契約するには多額の保証金を預けなければならず、事例として「推定月間売上の3カ月分の保証金、もしくは抵当物件、あと保証人3人」とあった。飲食店の粗利益が概ね60~70%なのに対して書店は20%前後というから、たとえ熱意があったとしても潤沢な自己資金を用意できなければ始められない。著者の取材を受けた書店経営者の1人は、参入障壁を高くして新規書店を抑えようとしたのではないかとさえ述べている。

 それでも現在頑張っている書店はというと、高齢者から「針と糸はないか、釘はないか、絆創膏はないか」といった要望に応え、“ご用聞き”として活躍していたりする。横浜市青葉区で営業する昭和書房は、2016年に放映された『重版出来!』や『逃げるは恥だが役に立つ』の小道具に使う雑誌の手配のみならず、セットに飾る百科事典を揃えたりしたそうだ。また、店内にカフェを置くことで利益率の少ない出版物の売上を補い、作家の講演会やイベントなどを主催して本の売上につなげたり、反対に大型書店が撤退した地域の喫茶店が客から「こういう本を探しているんだけど」との要望を受け、出版社と直取引することによって本の扱いが増えていったりしたというお店が紹介されている。

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 他にも青森県八戸市では本屋を行政が運営し、売れ筋を置かなければ経営が成り立たない民間の書店が揃えないような本を取り扱うことで、市民の読書意欲を高めようという取り組みがあるという。あるいは品揃えの多い大型書店が近くにあるからこそ、参考書のような特定の分野をあえて切り捨て、地域のニーズに応えた品揃えをすることで生き残りを図っているところもあるようだ。その中でも、いわた書店の「一万円選書」は興味深い。「お客さまの読書歴を見て、そこにはないジャンルの本を入れる」そうで、ネットでのマッチング広告は興味のある物をリストアップしてくるから、すでに入手している本を勧めてきて役に立たないことからすれば自分の視野を拡げるものだろう。そう考えると実店舗の本棚を眺めているうちに、本のほうが自分を見つけてくれた…。そんな出逢いが書店にはあり、まだまだ世の中がネット通販や電子書籍へと完全に移行することは無さそうだ。

文=清水銀嶺