63歳処女作で芥川賞受賞!『おらおらでひとりいぐも』を読書家はどう読んだ?

文芸・カルチャー

2018/2/24

『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子/河出書房新社)

 青春小説の対極に位置する「玄冬小説」が、第158回芥川賞を受賞した。『おらおらでひとりいぐも』は63歳にして小説家デビューを果たした若竹千佐子氏の処女作。夫に先立たれ、子どもたちともうまく関係を結べないと感じている74歳の桃子さんが東北弁を武器に「老い」と向き合っていくこの物語は、「歳をとるのは悪いことばかりではない」と思える感動作だ。

 桃子さんは、結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した。住み込みでアルバイトをし、周造と出会い、結婚し、二児をもうけ、そして、子育てが終わったと思ったら、夫はあっけなく死んでいった。

「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」。74歳になった桃子さんは40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとりお茶をすすりながら、過去を思い出し、これからに思いを馳せ、時に幻想に身を投じていく…。捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、亡き夫への愛。震えるような悲しみと孤独の果てに、桃子さんが辿り着いたものとは。

「青春小説」は私たちに懐かしさを覚えさせるものだが、「玄冬小説」は自分自身のこれからの暮らしをありありと見せつけられるものだ。老後の女の孤独と希望を鮮やかに描き出したこの物語を読書家たちはどのように読んだのだろうか。

読みだしてすぐから興奮が止まらない。誰彼かまわずこの魅力を訴えたくなる。凄まじい吸引力。方言の力技。なるほど。使う言語や方言で、人となりは変化するものだ。「老いる」=出来ることが次々と減っていくばかり…そんな恐怖が軽減されていく。老いの孤独とは、こんなにもたくましく、可笑しく、頼もしくあり得るものか。(おさなごころ)

女の一生が胸に迫る。胸の中を行きつ戻りつする迷いと信念、愛と欺瞞、後悔とこうしか生きられなかったという自信。祖母や母の胸の内を覗くようで怖かった。私は何もわかっていなかったのだ。そのことを、この後の人生で確かめ確かめ生きていくのか。「分がんねえべな。日々を重ねてはじめて手に入れられる感情がある」「おら、いぐも。おらおらで、ひとりいぐも」。生の終わりを見据えてなお、独り探り続ける崇高な精神世界。私はまだ入り口に立ったばかり。(しいたけ)

家族とも離れて孤独になってから得られた自由に喜びを感じ、そのことを大事に思うという桃子さんの哲学はたのもしくて勇気を与えてくれます。時が過ぎていくなかで、家族とも過去の自分と別れても、現在の自分とこのように深く付き合えたらいいと思いました。(momo)

いつか桃子さんと同じ場所にたどり着いたとき、私はこんなふうに立ち向かえるのだろうか。老いるということ、いつかは訪れる〈死〉というゴールの前にひとり佇むこと。それらが、「怖くない」と言ったら嘘になる。けれど、どうしてか「大丈夫」だと思えた。大切な相手がこの世を去り、かつてそこにあったはずの時代が遠ざかっても。誰もが、自分で自分を鼓舞しながら生きていくのだ。ひとり雪を踏みしめながら、「前へ」と歩いていくかのような清冽で力強い小説だった。(波多野彩夏)

東北弁と標準語のコントラスト、リズミカルで生き生きとした文章が読んでいて楽しい。一度読み出したら止まらない。すっかり桃子節に取り込まれて、とってもいい気分。「老い」を孤独ととるか自由ととるかはその人次第。けれどこの作品を読み終えた今の私は並々ならぬパワーをもらえた。おらの今はこわいものなし、なのである。(nico)

なんだろう、なんか凄いもの読んだなー。主人公の桃子さんの独り言に読んでる自分も巻き込まれてぐにゃぐにゃ回転して一回りしてまた元に戻ったって感じ。でもその元は元じゃない、ちょっと違う元の自分。東北弁って聞くと全然わからないけど字にするとリズム感があってどんどん読める。(志奈如)

凄い感動の小説です。子育ても済んで、思いもよらなかった最愛の夫の突然の死。40年住み馴れた家で老いを迎えて、独り明日を見つめる桃子さん74歳が主人公。切切と語られる亡き夫へのひたむきな愛の想い出が胸に刺さる。母として、妻として第一の役目を果たした桃子さん、女として第二の人生に立ち向かう強靭な精神力が見て取れます。妻にこれほどまで慕われたら男冥利に尽きるだろう。羨ましい仕合せな夫だ。(じいじ)

心の中に入り込んだり、あるときは第三者の目線とを行きつ戻りつする描写で、自然に桃子さんと一体になれる感覚がある。マルチタスクな主婦脳、いろんなひとが頭の中に住み着きあちこちとんでいく思考。ひとりのおばあさんの思索から多くの真実や深淵がうかがえた。(かわうそくん)

 老いない人間はいない。この本に描かれているのは、私たちの未来なのだ。孤独、悲しみ、そして、みなぎる力強さ。この感動作をぜひあなたも手にとってほしい。

文=アサトーミナミ