上質と手軽さはトレードオフ! 失敗する前に読みたい、事業のポジションの見極め方

ビジネス

公開日:2018/2/26

『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか』(ケビン・メイニー、ジム・コリンズ:著、内田和成:解説/プレジデント社)

 例えばデパ地下で惣菜でも買おう、と思ったとき、私たちは調理時間や手間とその金額を天秤にかけている。日々の買い物1つをとっても、「トレードオフ」を無意識に行っているのだ。

 ということは、ビジネスとして物事を考えるとき、売り手は常にその取捨選択を考え、求められるサービスや商品を提供しなくてはならない。『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか』(ケビン・メイニー、ジム・コリンズ:著、内田和成:解説/プレジデント社)は、消費者側からみると一見当たり前の、しかし企業側が忘れがちな、タイトル通り「上質をとるか、手軽さをとるか」という指標について書かれた本だ。

■有名高級ブランドを位置づけている「トレードオフ」とは?

 本書によると、「手軽さ」と「上質さ」はトレードオフで、どちらも同時に得ようとすると失敗してしまうという。上質とは「経験+オーラ+個性」であり、そこに手軽さが加わってしまうと、個性もオーラも消えてしまうからだ。お金を払い、誰でもはできない特別な素晴らしい経験ができ、それをすることで自分が輝いて見えるものには人はお金を出す。
 高級ブランド品が分かりやすい例だろう。高級感漂うお店に行き、店員に丁重に扱われながら商品を選び、購入し、それを人前で使う。多くの人は、このすべての流れに価値を感じて、高いお金を払うのだ。

advertisement

 もし商品の価格が下がり、誰でも所有できる手軽なブランドになってしまったら、それを持つ人の個性もオーラも消えてしまうだろう。いわゆる“大衆向け”になってしまうのだ。するとその分野には「手軽さ」「安さ」を追求している競合商品やサービスがひしめき合っている。安さで勝てない元高級ブランドは、安くもなく特別感もないパッとしない商品へとなり下がり、愛されもせず必要ともされず、やがてお客さんの目に留まらなくなってしまうのだ。

■カメラ付き携帯電話が起こした、カメラ業界のシフトチェンジ

 そして、その「上質」と「手軽さ」の水準は常に変化し、上昇し続けているという。
 特にテクノロジー方面ではその動きが早く、努力を怠ったり開発に時間をかけすぎたりすれば、あっという間にライバルに追い抜かれ、本書でいうところの“不毛地帯”へと追いやられてしまう。

 さらに、稀に「戦略の変曲点」という現象も起こる。つまり、今までの競合や市場を大きく変えるようなまったく新しい商品が登場し、既存の競争が通用しなくなる転換点のことだ。“カメラ付き携帯電話”の登場は、この「戦略の変曲点」だったと書かれている。

 従来、カメラ業界はクオリティの差で上下にマーケットが二極化していた。そこにカメラ付き携帯電話が登場したことで、「用途」や「撮り方」といった選び方が加わり、市場に大きな変化が巻き起こったのだ。携帯電話で撮影した写真はメールやSNSなどを介して人とシェアしやすく、手軽さを売りにしていた従来のコンパクトカメラですらもあっという間に不毛地帯へと追いやられてしまった。

「つながる」という体験を共有できる社交性は、上質感をぐっと押し上げる。手軽につながることができ、どこにでも持ち運べる携帯電話のカメラ機能やゲーム、動画コンテンツは人々の習慣になりやすいため、ヒットが約束されていたも同然なのだ。

 しかし、ここで本来の手軽さを忘れて上質を目指してしまえば、恐らく鳴かず飛ばずの失敗作が誕生するのではないだろうか。かつてアメリカの大手スーパー・ウォルマートも、手軽さに加えて高級路線を目指し、都市部への出店を試みたそうだが、結局方針が迷走し、計画倒れとなった。利用者は、もともとそんなものは求めていなかったのだ。

■あなたの会社は大丈夫? 何と何をトレードオフするかの見極めが大事

 このように、上質と手軽さのトレードオフをカギに、企業の成功例と失敗例をみていくと、ライバルや自社のポジションをきちんと明確化し、この先どう戦っていくべきなのかを解き明かすことができる。

 この『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか』には、「上質と手軽さの天秤にかけるうえで見極めたい5つの留意点」や「ハリネズミの概念」など、ビジネスで勝負するポイントをより確実に絞るための手法が、ぎゅっとたくさん詰まっている。

 失敗を恐れない思い切りやチャレンジも大事だが、できるリスク回避はするに越したことはない。自分が今携わっている会社の事業がどこを目指すべきか悩んだら、まずは本書を読んで、事業のポジションをしっかりと掴んでみては?

文=月乃雫