フリマアプリ、カーシェア、民泊――シェアビジネスが世界中で広がる理由と4つの原則

ビジネス

公開日:2018/3/4

『シェア 〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』(レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース:著、小林弘人:監修、関美和:訳/NHK出版)

 フリマアプリ、カーシェアリング、民泊――。誰かと何かを「共有(シェア)」するビジネスが社会に大きなうねりを引き起こしつつある。かつての大量生産・大量消費の時代から「シェア」の時代へ。これは日本だけではなく世界中のトレンドになりつつある。『シェア 〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』(レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース:著、小林弘人:監修、関美和:訳/NHK出版)では、人々の生き方さえも変えつつあるこの社会経済のうねりを「協働型消費」と呼んでいる。

 それにしても、なぜ「シェアビジネス」がこれだけ私たちの間に浸透したのだろう。兄や姉から衣服をもらう「おさがり」をあれだけ拒んでいた私たちは、どうして進んで他人から衣服を譲り受けようとするのか。なぜホテルや旅館ではなく、見知らぬ他人の住居に民泊するのか。その理由を本書より考えてみたい。

■シェアビジネスを成功させる4つの原則

 本書は、世界中に広がりを見せるシェアビジネスが生まれた歴史を読み解き、それが成立するシステムと理由を解説した1冊だ。日本で翻訳・出版されたのは2010年であり、シェアビジネスが拡大を続ける昨今の様子を鑑みると、その先見性に舌を巻いてしまう(ちなみに本書は、識者の解説を加えて改版されたペーパーバック版だ)。
 本書ではシェアビジネスを理解する上で大切な要素をいくつも紹介している。その中でも特に欠かせない4つの原則をご紹介しよう。

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1.クリティカル・マス

 クリティカル・マスとは、ある商品やサービスが普及するために必要とされる数量のこと。つまりシェアビジネスを成功させるには、一定の数量や不特定多数の種類を扱う必要があるのだ。フリマアプリの場合、「あれもある!」「こんなのも売っている!」という不特定多数の商品を見つけたときの「感動」がなければ、わざわざ誰かのお古を求める理由がなくなってしまう。レンタサイクルを利用しようにも、少ない台数しか貸し出していないようであれば自転車の取り合いになって、最終的にはその利用を諦めるようになってしまうだろう。

 また、社会的承認を促すという観点でもクリティカル・マスは必須になる。「友達がフリマアプリを使っている」「レンタサイクルを使った観光が人気」というように、「みんなが利用するから自分も利用する」流れが生まれるのだ。これは、大量消費時代の「みんなが持っているから私も買う」という購買意欲と一緒の原理だ。

2.余剰キャパシティの活用

 必要だったから購入したものの、たまにしか使わないモノがどの家庭にもあふれている。週末にしか乗らない自動車、思い出したように履くスニーカー、飽きてしまったアコースティックギター……。これらは別の人の手に渡ると、途端に今まで以上に活躍するかもしれない。

 自家用車に乗って通勤する人の多くは1人乗りだろう。近くに住む会社の同僚を乗せて一緒に通勤すればガソリン代をもらえるだろうし、同僚も通勤代が安くなるかもしれない。コミュニケーションが増えて、今まで以上に仕事がはかどることもあるはず。

 所有しているものを別の人に譲ったり共有したりすることは、想像以上に私たちに利益をもたらしてくれる。余剰キャパシティは“眠れるお宝”といっても過言ではない。

3.共有資源の尊重

 人類全員が所有する資源という意味を表す「共有資源」。本書では、この言葉と考え方の誕生についてローマ時代までさかのぼり、詳しく解説している。長くなるといけないので、現代的な観点からざっと説明しよう。

 誰もが使える資源をみんなが自分勝手に使うと、最終的に全体が不利益をこうむる。動植物の乱獲や自動車の渋滞などがそうだ。誰もが利用できる資源だが、それには限りがある。これを「コモンズの悲劇」という。

 一方、電話はこの世に1台しかなければ相手がいないので使えないが、2台あれば成立する。誰もが持てばその利用も広がり、電話の価値が高まる。シェアビジネスを利用する人が増えれば増えるほど、全員にとってより良いシステムが構築されていくのだ。

4.他者との信頼

 シェアビジネスの大半は、程度の差があるものの、見知らぬ誰かを信頼しなければ成立しない。カーシェアを利用するならば、一緒に乗り合わせる人が無害であることを信じるし、図書館ならば、その前に借りた人が本を汚していないことを信じる。

 大量消費の時代には、生産者と消費者を仲介者がつないでいた。メーカーが作り出した製品を流通業者が運び、小売業者が管理・販売し、消費者に届けられていた。しかしシェアビジネスでは、見知らぬ誰かがお互いに信頼し合うことで仲介者の存在を必要としなくなる。他人を信じる心とシステムの自律が、ビジネスを支えているのだ。

■シェアとはコミュニティを形成すること

 この4つの原則を読んで、気づくことがないだろうか。シェアビジネスでは、資源も大切だが、なによりそれに参加する“人々”が大切になってくる。「シェアする」ことは「誰かとコミュニティを形成する」ことでもあるのだ。

 フリマアプリをダウンロードして見知らぬ誰かと連絡を取り合い、物と物を交換する。カーシェアで同じ空間と時間を過ごす。次に乗る人のためにレンタサイクルをきれいに使う。
 それが高じると、世界中のランナーたちと励まし合いながら走るナイキプラス、世界最大の辞典の管理を維持するために利用者が有志ボランティアに参加するウィキペディアなど、一層大きい集まりに変化していく。

 シェアはコミュニティに通じる。だから本書では「協働型消費」という呼び方をしているのだ。そしてこのコミュニティの形成を可能にしたのがインターネットをはじめとするネットワークだ。誰かと誰かをつなげてくれる大切な役割を果たしている。

 所有から共有へ、私たちのライフスタイルを変えつつあるシェアビジネスの成功の根本には、つながりや帰属意識を求める人間らしい理由があった。

文=いのうえゆきひろ