広辞苑も説明を誤った「LGBT」、あなたは説明できる?

暮らし

2018/3/5

『広辞苑 第七版』(岩波書店)

 この冬、岩波書店から10年ぶりに『広辞苑』の改訂新版が刊行された。ところが、その第七版の「LGBT」の解説に誤りがあったという。

 今回、新たに広辞苑に盛り込まれたLGBTの項目には、「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」と記されていた。ところが、LGBTとは、女性同性愛者のレズビアン、男性同性愛者のゲイ、両性愛者のバイセクシュアル、生まれたときの体の性と心の性が一致しない人であるトランスジェンダーの頭文字を取った言葉だ。つまり、「LGB」は好きになる性を表す「性的指向」の概念で、「T」は自分のことを男だと思うか女だと思うかという「性自認」の概念である。このため、広辞苑の記述では、「LGB」の説明にしかなっていないと指摘された。

 そのニュースに触れて、こう考えた人も少なくはないだろう──「じゃあ自分は、『LGBT』について正しく説明できる?」。

 岩波書店はその後、「LGBT」の説明に誤りがあるとして、お詫びとともに正しい解説文を発表した。その記述は、以下のとおり。

エル‐ジー‐ビー‐ティー【LGBT】
(1)レズビアン・ゲイ・バイセクシャルおよびトランスジェンダーを指す語。GLBT
(2)広く、性的指向が異性愛でない人々や、性自認が誕生時に付与された性別と異なる人々。

 ただ、「LGBT」という用語を理解するのは簡単なことではない。そもそも、個人の性的指向や性自認、つまりアイデンティティを表す言葉に、“正しい”説明なんてあるのだろうか? そんな気づきを得られるのが、本書『13歳から知っておきたいLGBT+』(アシュリー・マーデル:著、須川 綾子:訳/ダイヤモンド社)だ。

『13歳から知っておきたいLGBT+』(アシュリー・マーデル:著,‎ 須川 綾子:訳/ダイヤモンド社)

 本書のページをめくると、冒頭から「LGBTQIA+」という用語が現れる。性とジェンダーについての知識が少なく、知りたいと思って本書を手に取った人は面食らうかもしれないが、安心してほしい。「LGBTQIA+」という文字の横には、「LGBTQIA+の意味は巻末の用語解説で確認してください」という注釈がきちんと入っているのだ。巻末の用語解説をいちいち参照しなくても、「わからない言葉はあとで詳しく解説していくので、ひとまず読み飛ばしていただいてかまいません」。

 その記述どおりに読み飛ばしていても、本文ではLGBTQIA+の多くのアイデンティティと用語について、読みやすい文体でさまざまな角度からの解説が加えられ、ポップでスタイリッシュな図表やイラストが添えられていく。解説やイラストを追ううちに、自然と「私にとってこの用語はこういう感じかな」と自分の意見を持つこともできるのが、本書の構成の優れた点だ。そうやって自分なりのイメージをつかみながら読んでいき、それぞれのアイデンティティに該当する人のコメントで理解を深め、たどりついた巻末の用語解説で一般的な解釈を知るのも本書のおもしろい読み方だろう。

 ちなみに、巻末のLGBTQIA+の項目には、「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアまたはクエッショニング、インターセックス、アセクシュアルまたはアロマンティック、およびストレートやシスジェンダーではないすべてのアイデンティティ」という解説文がある。もちろん、ここに並んだ用語でわからないものがあっても、本文や巻末の用語解説で説明されているので大丈夫。しかも著者が言うことには、それぞれの用語の「暗記は不要!」。用語を誰かのラベルにすることが本書の目的ではないし、今後、議論が活発になれば、より優れた説明が生み出される可能性もあるからだ。

 本書からは、性とジェンダーの多様性について学ぶことに関心のある人なら誰でも、「13歳から」というタイトルが表すとおりに、LGBTQIA+のアイデンティティと用語について、易しく、詳しい知識を得ることができる。読み終わるころには、ひとくちに「LGBTQIA+のアイデンティティ」といっても、人によってさまざまな色合いや濃淡があることを実感しているに違いない。同時に、この社会には多様な人がいて、その誰もが違っていていいのだと思えるようになり、ほっとする。

 もしかすると、LGBTQIA+というアイデンティティをただひとつの解説にまとめてしまおうとする試み自体が、ナンセンスなことなのかもしれない。アイデンティティは、その人の生き方そのものだ。本書を読み、自分にとって新しいアイデンティティについて知ることは、LGBTQIA+の当事者や支援者であるかどうかにかかわらず、より自分らしい生き方を見つけ出すヒントになるだろう。

文=三田ゆき