今日も間違ったアプローチしてませんか? ファンをつくればお客を呼んでくれる!

ビジネス

公開日:2018/3/6

『ファンベース』(佐藤尚之/筑摩書房)

 10年以上ネット通販の仕事をしている友人Aと飲みに行くと、すごくつらそうに嘆いていた。

「小売業はきついよ。ただ売るだけじゃAmazonや楽天のような大手には勝てないし、メーカーになるには会社の体力も足りないし……」

 業界や業種は異なれど、同じように悩んでいる人は多いかもしれない。
 その悩みを解決する方法の一つが、“会社のファンをつく り、ファンを喜ばせること”だ。私がこう思ったのは『ファンベース』(佐藤尚之/筑摩書房)を読んだからだ。

advertisement

 ファンとは企業にとって強くコアなお客さまのこと。ファンは“企業、ブランド、商品・サービスの価値”を支持してくれている。彼らをベース(土台・母体)として中長期的に売上げや価値を上げ、収益を安定させ、企業を成長させる。これからは新規顧客を増やすことに労力を使うよりも、今ついているファンに目を向けるべきである。これがファンベースという考え方の基本だ。

■ファンベースが必要な 3つの理由

 本書で述べられているファンベースが重要とされる3つの理由を、冒頭の通販会社に勤める友人Aのコメントと併せて 紹介していきたい。

(1)ファンは売上げの多くを支え、伸ばしてくれるから
「全顧客数のうちの20%が、売上げ額全体の80%を生み出している」とよくい われる。その上位少数が会社のファンであり、彼らに複数回購入してもらえば、収益の安定に繋 がりやすい。たまにしか買わない新規顧客を増やそうとすることは非効率である。

友人A「ネット通販では、安売りやクーポンなど赤字になりがちな企画で顧客数を増やそうとするもの。でも、その1回きりで、リピーターになってくれないんだよね……」

 友人Aの会社も、今いるはずのファンにもっと何回も利用してもらうことに注力するべきで、そのために何をすべきか対策を考えることが急務だろう。

(2)社会的背景の変化によってファンの重要性が増しているから

 日本の人口は2008年をピークに毎年100万人減っている 。高齢化の進行や独身者の増加という統計もある。そうすると、ライフステージに変化が少ない層が増えるため、新規の商品・サービスに手を伸ばさない傾向が強くなる。
 一方、巷の商品・サービスは供給過多で情報量が多すぎるため、キャンペーン施策は人に届きにくく、届いてもすぐ忘れ去られてしまう。

友人A「会社が発信するメールマガジンの開封率が下がっている。以前はメールから購買に繋 がることが多かったんだけどね。SNSにはユーザー数がいるのに、売上げには繋 がっていないみたい」

 特にインターネットでは変化 の速度が著しいが、社会的状況を抜本的に改革する ことは難しい。だからこそ、今いる既存のファンが一層重要となる。

(3)ファンが新たな顧客をつく ってくれるから

 商品や情報があふれかえっている状況では、価値観が近い人間からの情報が非常に重要になる。「口コミ」を考えればわかりやすいだろう。信頼できる人からの体験情報や意見は、自分にとっても役に立つだろうから受け取りやすい。
 このように、人の間から自然に言葉や情報が伝達すること を“オーガニック・リーチ”という。ファンから次の人へ情報が繋 がるときには、TVやネットのような間接的な伝達を凌ぐ強力なメディアとなる。

友人A「ネット通販では直接商品を見ることができないから、口コミ情報がとても重要。『友達が使っているのを見て買いました』っていうコメントもよくあるよ」

 商品やサービスに満足すれば、次には自主的に友人に広めたくなるものだ。その友人もまた、信頼できる相手から勧められれば試したくなるだろう。こうしてネットワークができていく。企業は、このようなファンとの繋 がりを深めるべきだ。

■ファンベースで、ファンと一緒に“仕事を楽しむ”

 ファンベースが必要とされる理由は理解できたと思う。その具体的な施策や、実際のビジネス事例は、本書で読んでみてほしい。

 さて冒頭で友人Aの悩みを解決するのは、ファンを喜ばせることだと書いた。これはキレイゴトや理想論ではない。ファンベース施策は、不特定多数向けにメールマガジンを送るよりずっと手間がかかるだろう。どうやったらファンに喜んでもらえるかを考えることはつらいかもしれない。でもその先にファンの笑顔があることを想像すれば、社員やスタッフのやり甲斐にも繋 がるのではないだろうか? 著者はこう述べている。

「自分たちの愛する商品、その価値を支持してくれるファン、彼らを喜ばすことほど楽しい仕事は世の中にあるだろうか?」

 仕事の目的が見えずつらいという人は、本書を手に取ってはいかがだろうか。人は喜びに満ちて仕事をするべきだと思う。

文=古林恭