妻の妊娠中に不倫…“スキャンダル国会議員”が多いのは超難関試験がないせい?

文芸・カルチャー

更新日:2018/4/2

『国会議員基礎テスト』(黒野伸一/小学館)

 男性秘書へのパワハラが問題となった豊田真由子。妻の妊娠中にゲス不倫をしていた宮崎謙介。セクハラ野次問題の大西英男。重婚、ストーカー疑惑が持ち上がった中川俊直。被災地を巡る言動で批判を浴びた務台俊介…。「魔の2回生」議員たちの数々のスキャンダルが暴かれたのは記憶に新しい。しかし、思い返せば、「魔の2回生」議員に限らず、政治家たちの言動は問題になりがちだ。不倫・失言・品位がない行動。「未曾有」を「みぞゆう」と読んだり、「云々」を「でんでん」と読んだりするレベルの漢字力…。選挙は単なる人気投票でいいのか。国会議員のあり方が今問題視されている。

『国会議員基礎テスト』(小学館)は、黒野伸一氏による政治エンターテインメント小説。黒野氏といえば、NHKでドラマ化され、累計発行部数32万部を突破した『限界集落株式会社』の作者として知られている。黒野氏は『限界集落株式会社』では、現実的かつホンモノの地方自治を小説として提案していたが、本作では、読者たちに「国会議員に基礎テストが必要ではないか」という提案をぶつける。立法・司法・行政の三権のうち、中央省庁の役人も裁判官も、超難関の試験を通っている。しかし、一番大切な立法府を構成する国会議員に試験がないのは、おかしくはないか。実際に政治の世界に迷い込んだような臨場感で議員たちの姿をいきいきと描き出したこの小説は、2018年、大きな話題を呼ぶにちがいない。

 祖父の代から栃木県X区を地盤とする33歳のイケメン衆議院議員・黒部優太郎は、典型的なボンボン議員。女性人気も抜群だが、苦労もなく議員となった彼は、部会や委員会をさぼってはデートに明け暮れる、体たらくぶりを発揮していた。そんな優太郎の尻拭いをさせられていた政策秘書で元官僚の橋本は、自らも政治家を目指すことを決意。ほどなくして、優太郎は、自身の相次ぐスキャンダルと、橋本が周到に準備した策略にはまり、議員辞職を余儀なくされることになってしまった。

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 一方、補欠選挙を勝ち抜き、代議士となった橋本は、政治家にも資格試験を義務化する「国会議員基礎テスト」法案の立法に向けて邁進していく。橋本の運命は? 優太郎に名誉挽回のチャンスはあるのか。優しいだけが取り柄の優太郎と、策略をめぐらす橋本の戦いはどのように展開していくのか。

 優太郎の経歴は華々しい。幼稚園から某有名私立に通い、大学卒業後は総合商社に入社。その後、議員となった優太郎は、女性誌にもたびたび登場するほど、顔も人も育ちもいい独身の三世議員だ。だが、甘やかされて育ったからこそ、彼には学力はないし、世間知らず。スキャンダルからの議員辞職というはじめての逆境を前に、優太郎はどうするのか。今まで他人事でしかなく、理解もしていなかった、格差や少子高齢化を目の当たりにするにつれて、優太郎は変わっていく。

 この本を読んで政治のおもしろさがはじめてわかった気がする。登場人物たちの視点で物語が展開されていくうちに、読者も政治への理解・関心が深まるこの一冊は全国民必読の政治エンターテインメント小説だ。

文=アサトーミナミ

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