実の刑事の息子だから書けた、3つの“警察家族あるある”――殉職した父の死の謎とは?

文芸・カルチャー

2018/3/9

『刑事の血筋』(三羽省吾/小学館)

「事件は会議室で起きてるんじゃない、家族の中で起きてるんだ!」と、『踊る大捜査線』の脚本を担当した君塚良一さんが推薦するのは、三羽省吾さんの新刊『刑事の血筋』(小学館)だ。地元・津之神市の所轄の刑事としてチンピラ殺しを追う高岡守と、県警の金の流れに不信感を持ち、不正への極秘調査をすべく警察庁の刑事企画課から地元に戻った兄の剣。あまり兄弟仲のよくない2人だったが、各自が捜査を進める中で互いの「謎」がリンクし、やがて協力して巨大な闇に共に挑んでいく――。堅牢で閉じた「警察組織」を舞台に奥深い闇が見え隠れするミステリは、“ザ・警察小説”の醍醐味が満載だ。

 だが、この小説の面白さはそこだけではない。この高岡兄弟は父・敬一郎も刑事という「警察一家」なのだが、実は著者の三羽さん自身が刑事の父を持つ警察家庭育ちであり、この小説はその記憶をもとに描いたものだという。そのせいか警察官の家族とその日常がかなりリアルに描かれ、まるで「警察“家族”小説」というべき新鮮な面白さがある。あくまで展開はシリアスなのだが、たとえば以下のような警察家族の「あるある」につい注目してしまうのだ。

●警察家族のあるある その1「親子代々警察一家も珍らしくない」

「公僕としての覚悟は何代かの血を経て熟成される」ためか、主人公の高岡親子のように公僕である「警察官」は近親者が同じ職を選ぶことが珍しくない職業。とはいえ「警察官を父親に持ってしまった子供は、好きとか嫌いとか、そんな分かりやすい感情で父親を捉えることはできない」と守が述懐するように、親に複雑な思いを抱く子供たちはまっすぐ同じ道を選ぶわけでもない。やんちゃ者だった弟の守は父に抱く「畏れ」を自覚した高校時代に意志を固め、親の職業には否定的だった兄の剣も大学卒業後に東京の警察庁に。キャリア組の兄とノンキャリアの弟という立場が違う2人だが、肉親間だからこそ警察ヒエラルキーのシビアさが浮かび上がる。

「警察官ってのは、飯を喰う手段である前に生き方だ。安定だの社会的信用だのを求めてやられたんじゃ、周りが迷惑すんだよ」と不正を働いた同僚に吐き捨てる守。そんな警察官という職業人の原点は、信念を貫いた亡父の背中が2人に教えてくれた。

●警察家族のあるある その2 「緊急の呼び出しや連泊、転勤が多いのも当たり前」

 事件が起きれば深夜や休日の召集も当たり前、事件が山を迎えると泊まり込みが続くこともある。守も子供時代の作文に「日ようも仕事に行くことがあるし、りょこうが中止になることもあります。そんな時は少しだけさみしいけど、お父さんが『悪い人をつかまえるのはたいへんだけどたいせつな仕事だ』と言うので、ぼくはがまんします」と残している。ちなみに守は仕事が落ち着くと官舎に仲間を呼んで恒例の焼肉パーティ。家族もそれで「一山越えた」と知るが、家族とはいえ詳しいことは話せない警察家族ならではのコミュニケーションといえるかも。ちなみに転勤も多く子供の転校問題など悩みも多い(剣は娘の転校を避けるため単身赴任を選んだ)。

●警察家族のあるある その3「警察官の仕事を支える妻たちの底力に注目!」

 警察官である夫はあえて語らなくとも、それとなく察してサポートする妻たち。深夜の呼び出しにもてきぱき夫を送り出し、長期不在中はどっしり大黒柱の役目をはたす。時には夫の連れてきた謎の客の相手もする(父・敬一郎は出所した元犯罪者と自宅飲みをしたし、守は被害者の恋人を夕飯に連れてきた。いずれも妻への詳細説明はないようだ)。引っ越しの手伝いや中元歳暮のやりとり、子供の年が近ければ花見や運動会など、独自のコミュニティを形成する警察官舎の主役も妻たちだ。そして胸には「警察官の妻」としての覚悟。強い女たちなのだ。

 テンション高くスリリングなミステリでありながら、こうした人間臭いリアリティが妙に心の残るのは、著者がリアル刑事の息子だからこそ。

 そして共に謎を追う高岡兄弟が最後に見つけたのは、互いに対するリスペクトと汚名を着せられたまま殉職した父の真実――なかなか姿をみせない「本当の敵」とは何か、最後まで目が離せない一冊だ。

文=荒井理恵