お客様はすべて動物!? 西村ツチカが送る大人向けファンタジー

アニメ・マンガ

2018/3/12

『北極百貨店のコンシェルジュさん』(西村ツチカ/小学館)

 百貨店に入ると、自分がとても上等な人間になったような気持ちになる。きちんと身支度を整えた店員さんが、丁寧な言葉づかいで対応してくれると「まだ何も買っていないうちから貴族のように扱われている…」と、うれしいようなくすぐったいような、なんとも面映い気分になる。

『北極百貨店のコンシェルジュさん』(小学館)は『ビッグコミックス』で連載中の西村ツチカさんが描く大人のためのファンタジー。物語の舞台は、タイトル通り、北極百貨店という謎の百貨店だ。

 主人公の新人コンシェルジュ、秋乃さんのほか、神出鬼没のフロアマネージャー、秋乃さんを温かく見守る上司や、きびきびとした態度の先輩、ちょっと斜に構えた同僚やレストランの給仕長など個性豊かな登場人物たちが、お客様の期待に応えるべく、最高のおもてなしをしてくれる。

 少し変わっている点といえば、お客様はすべて「動物」だということ。長年連れ添う妻を喜ばせたい金持ちのワライフクロウ、久々に会う父への贈り物をさがす女優のウミベミンク、美しい彼女への求婚にひるむ若者のニホンオオカミなど、かわいらしくデフォルメされた動物たちが、今日も悩みを抱えてやって来る。

 ドがつくほどの新人コンシェルジュである秋乃さんは、彼らが満足して買い物ができるように、悪戦苦闘しながらもとっさの機転と頑張りで解決していく。

「お客様」の中には、ことさら丁重に扱わなくてはならない方もいて、従業員からは、V・I・A(Very Important Animal)と呼ばれている。彼らは地球上から姿を消したといわれている、絶滅種の動物たちだ。

「私はお店へいらした全てのお客様が笑顔になっていただける、浮かない気持ちでいらしたお客様も…最後は笑顔になってお帰りいただける、そういう北極百貨店が好きです」

 それがたとえ翼や蹄を持っていたとしても、秋乃さんたちは困っているお客様がいれば、必ずにこやかに対応してくれる。一見すると風変わりな世界観だが、根底には秋乃さんや従業員らの「すべてのお客様に笑顔になってほしい」という真摯な思いが溢れている。読んでいると、何よりもその細やかなサービス精神に心打たれる。

 帯には「好き! 好き! 超キュート! これ、絶対人気でます(確信)」(恩田陸)、「ツチカさんの漫画がずっと好きです。北極百貨店、新境地ですね」(松本大洋)と名だたる著名人がコメントを寄せている。

 読み終えたとき、あなたもこの不思議な百貨店に足を運んでみたいと思うはずだ。

文=音田アユム