目からウロコの経済学“再”入門 「貿易黒字と経済成長は関係ない?」

ビジネス

2018/3/15

『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』(菅原晃/河出書房新社)

「貿易収支が……」「アベノミクスが……」
 上司や同僚が経済の話をしている。そんな時、つい知ったかぶりをしてしまうことはないだろうか。

 あるいは「今朝の日経の記事、読んだ?」なんて話を振られると、おろおろしながら「えーと、今日はまだ」なんて。本当は読む予定もなかったのに。そんな状況に、心当たりはないだろうか?
 この場を借りて告白しよう。私はある。正直に言って、経済のことはよくわからない。なんとなくイメージで「貿易黒字」といえば良いこと、「貿易赤字」といえば悪いこと、と思っていた。実際はどういう仕組みなのか、今さら人に聞きづらい……。そんな大人にこそ本書『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』(菅原晃/河出書房新社)をおすすめしたい。

■俯瞰的な視点で捉えることの大切さ

 本書はタイトルの通り、高校で学ぶ程度の知識や用語を用いてわかりやすく、本格的な経済学へと橋渡ししてくれる入門書である。経済現象は、全体像を巨視的(マクロ)に捉えることにより、正確な判断ができるようになるという。その判断結果は、個人的、微視的(ミクロ)な視点になりがちな私たちにとって、時に意外なものだ。
 たとえば冒頭で触れた「貿易黒字」に関して、著者はばっさりと「なくてもかまわない」と斬り捨てる。「貿易黒字だから経済が成長するわけでも、貿易赤字だから経済が衰退するわけでもない」という。

 本書の解説によると、貿易黒字の時に外国は日本に国債や株式などを購入してもらったり、工場を建てるなどの直接投資を受けたりしているが、これは日本からみると外国にお金を貸している状態に当たる。つまり外国にある日本の資産が増えているということでもあるが、その資産は国内には流通しないので、「日本人の生活が豊かになる」ことには直結しないというわけだ(ここではかなり端折っているが、本書中ではもちろん数十ページを割いて丁寧に解説されている)。

 その裏付けとして、過去の高度経済成長期に年率10%で成長したGNP(国民総生産)に対して、貿易黒字はごくわずかな額にとどまっていたというデータが示されている。つまり、日本経済の高度成長は輸出拡大による貿易黒字増大によってもたらされたのではなく、あくまで国内市場の拡大によるものであり、日本が「貿易立国」だったことはないというのである。

 これは、ミクロ的な視点における「黒字」「赤字」という言葉の意味と、マクロ的な視点でのそれらは異なるという一例だが、本書では他にも「インフレ」「金融緩和」など、日常的によく聞くがなんとなくイメージでしか捉えていない事柄について、その仕組みが基礎から丁寧に解説されており、私にとっては“目からウロコ”の連続だった。

■経済ニュースの真実を見抜く目を持つ

 ページを繰るうちにさまざまな数式やグラフも出てくるが、高校の頃を思い出しながら、じっくり腰をすえて読み込もう。やがて、すっと頭に入ってくる瞬間が訪れるはずだ。本書の著者は現役の高校教師だという。なるほど、たしかにこういう、取っ付きにくい話をわかりやすく説明してくれる先生がいたような気がする。

 本書はあくまで入門書であり、経済学のすべてを網羅したものではない。しかし本書を読むことで、なんとなくわかったつもりになっていた、あるいは雰囲気だけで良し悪しの判断をしてきた経済現象について、正確に判断するための物差しや、俯瞰的な視点を身につけることができる。
 時としてニュースやマスコミの経済記事は、同じ事柄についても新聞や週刊誌によってまったく異なる解説が見受けられるが(本文中でもいくつか例示されている)、いったいどれが真実なのか、見抜けるようになっている自分に気づくだろう。

 明日の会社でのランチ、経済の話題になるようなら、ちょっと会話に入ってみようか。

文=齋藤詠月