すべての問題は「散歩」で解決!? お散歩コメディ『かりん歩』で名古屋と散歩の魅力を再発見!

マンガ・アニメ

2018/3/17

『かりん歩』(柳原 望/KADOKAWA)

 ふと「そうだ、散歩に行こう」と思い立つことはないだろうか。気分転換でも、考え事でもいい。散歩とはあてどなくするものだから、自由であるのが一番だ。そんな散歩の本質や楽しみ方に穏やかな視点で寄り添ってくれる作品、それが『かりん歩』(柳原 望/KADOKAWA)だ。

 主人公・市井かりんは、7つ下の妹・くるみのことが大好きで、妹が自分のすべてという大学4年生。
 就職活動に難航していた彼女は、改めて自分自身を見つめなおし、祖父・栄治郎の経営する喫茶店を継ぐことを決意する。
 そんな矢先、祖父がかえらぬ人となり、かりんは右も左もわからぬまま「喫茶しゅろ」の2代目店長として歩み始めることになってしまう……。

『かりん歩』は名古屋近郊を舞台に、喫茶店という場を中心にしながら、かりん達登場人物が「散歩」を通して人と人とのつながりや成り立ちを学び、成長していく作品だ。
 著者は『高杉さん家のおべんとう』でおなじみの柳原望。前作は「お弁当」を通してキャラクターの成長が描かれたが、今回は「散歩」をテーマとしており、前作よりも地理学に近しい内容となっている。

 地理学といわれるとなんだか堅苦しく感じてしまうが、作中で行われているのはあくまでも“散歩”。
 様々な大人達から助言を受けながら、彼女たちは自らが思うままに散歩をしていく。それがおのずと地理学に結び付けられるので、学問を知らずとも「なるほど」と感じ、なんだか身近なものに思えてくるのだ。

 とはいえ一概に散歩といわれても、やはり何をするべきか想像がつきにくい。そんな中、作中では散歩の楽しみ方として、4つが定義されている。

 季節や環境を感じること。
 場所を読み取ること。
 存在の理由を想像すること。
 そして最後に、他者のあたりまえに触れること。



 他者のあたりまえに触れて、五感でみつけたものは、自分の一部になる。
 散歩とはコミュニケーションであり、問題解決をするための一番のツールなのだ。
 だからかりんは、何か問題にあたればまずは散歩を提案する。実際に歩き、想像することで、人とのふれあいを重ねる。それにより一人の人間として、また「喫茶しゅろ」の店長として成長していくのだ。


 なお、本作は著者の前作『高杉さん家のおべんとう』の数年後が舞台となっている。そちらも読んでいると、おなじみのキャラクター達の今と成長が少しずつ垣間見え、より深く物語が味わえること間違いなしだ。
 巻末に収録されている高杉と久留里のエピソードも、ファンにとっては嬉しい要素のひとつだろう。


 そんな『かりん歩』最新3巻では、かりんが大学を卒業し、いよいよ名実ともに「喫茶しゅろ」の店長としてお客さんと向き合い始める。
 くるみのことしか考えられなかったかりんが常連さんの悩みに触れ、解決策を探そうとする。また彼女のことを敵視している元同級生・石居理央との関係にも少しずつ変化が見られるなど、様々な成長が見受けられる。
 もちろん散歩漫画らしく、今回も栄、大高、大須など、名古屋の名所が多数登場。名所めぐりとあわせて各地の歴史への懐古もされているので、それぞれの場所における新たな魅力発見のきっかけにもなるだろう。

 何気なく歩いている道を、地図の上から眺めること。実際に道を歩いて様々な思いを感じること。それから歴史と照らし合わせ、過去を思うこと――。「散歩」とは思ったよりも奥深い。
 普段ぼんやりと歩いている場所にも、何か歴史があるかもしれないと、思わず考えたくなる本作。名古屋という地域の魅力を堪能しながら、かりんたちが「散歩」を通して学び成長していく姿を、ぜひ見守ってほしい。

(C)Nozomi Yanahara/KADOKAWA