「ドラマのような」を切り裂くドラマ『イノセント・デイズ』にみる、妻夫木聡のプロデュース力

エンタメ

2018/3/16

 犯罪映画の傑作として語り継がれる『悪人』(2010年)の演技で、妻夫木聡は映画賞各賞を総なめにし、「若手」から頭一つ飛び出た俳優像を獲得した。同作は吉田修一の同名小説が原作だが、実は内容が重たいという理由で、映画化企画が頓挫する可能性もあった。それを救ったのが、原作を愛読し「自分が演りたい」と手を挙げた、実力と共に抜群の知名度を兼ね備えた妻夫木の存在だった(『小説「怒り」と映画「怒り」 吉田修一の世界』収録の対談より)。

 関係者が語っている通り、昨年公開の『愚行録』や『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』もそうだった。妻夫木の存在、妻夫木の情熱があったからこそ、企画が通り世に生み落とされることとなった。言葉の本来の意味で「プロデューサー」と呼びたくなる、彼の最新にして最大の仕事が、3月18日よりWOWOWで放送スタートした『連続ドラマW イノセント・デイズ』だ。

 原作は、2015年度日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)に輝いた、早見和真の同名小説。死刑判決から始まる、とびきりダークな物語だ。元恋人の妻と2人の子供を、放火で殺害した罪で確定死刑囚となった田中幸乃。世間から「整形シンデレラ」と呼ばれる彼女は本当に、凶悪な犯罪者なのか——。彼女と出会いすれ違った人々の視点から、その半生を多視点群像形式で描き出す。

 この小説を象徴しているのは、幾度か表現を変えて登場する「ドラマのような」というフレーズだろう。それは日常を逸脱する事件や犯罪者に対して、人々の好奇心がかき立てられた証であると同時に、思考停止の合図でもある。しかし、この物語は「ドラマのよう」の先へと想像力を巡らせる。謎は解かれ意外な真相があらわになる、というミステリー的な演出のすべてが、人間ドラマを深めるために機能している。

 ドラマ版では、小説の後半に登場する幸乃の幼なじみ・佐々木慎一が第一話から登場する。子どもの頃は快活だったのに、大人になった今は対人関係に苦手意識を持っている、常に伏し目がちの「探偵」が、幸乃と再び繋がりを持ち、彼女を救い出すために奔走する。演じるのは、妻夫木だ。幸乃を演じたのは、竹内結子。

 第1話でフィーチャーされているのは、原作の第2章に登場した幸乃の姉・陽子(ともさかりえ)だ。終盤、原作には存在しないけれども、この物語のテーマに見合ったシーンが追加されている。幸乃に手を差し伸べたいと直訴する妻夫木に対し、「遅いと思う。幸乃はもう誰にも救えない」と答えるともさかの冷酷でうつろな表情。だが、その声色に滲んでいたかすかな熱が、続くシークエンスでの彼女の意外な行動と連鎖する。映像作品ならではの説得力を感じる演技と演出だ。人は、人と関わることで己を変えるのだ。そればかりか、相手を変える可能性もある。慎一は、変える。慎一も、変わる。ドラマ版で慎一が主人公に据えられたことには、大きな必然性がある。

「ダ・ヴィンチ」4月号には原作者・早見和真のインタビューが掲載されている。映画『ぼくたちの家族』(2014年)の現場で、原作者と主演俳優という立場で初めて出会った2人は、その後も友情関係を築いていた。ある日、単行本刊行直後から進めていた『イノセント・デイズ』の映像化企画が中止となった。その噂を聞きつけた妻夫木から、早見の元へ連絡が入った。「僕に原作を預けていただくことはできませんか?」。小説の映像化に定評のあるWOWOWの「ドラマW」枠を推薦し、主演映画『愚行録』の石川慶監督に、本作の監督をと声をかけたのも妻夫木だった。

 第1話で映し出された硬質な画面の隅々から、傑作の予感が漂っている。だが、原作小説がそうであったように、全6話がアナウンスされている本ドラマは、最終章=最終話にすべてが賭けられている。「ドラマのような」を徹底的に切り裂くドラマの達成を、心の底から期待したい。

文=吉田大助

原作

『イノセント・デイズ』文庫書影

『イノセント・デイズ』
早見和真 新潮文庫 710円(税別)
元恋人の妻子3人を殺害した罪で確定死刑囚となった田中幸乃。彼女が小学生の頃、中学生の頃、社会人の頃……と、その時々で出会い、擦れ違ってきた人々が、彼女との思い出を語り出すたびに「真実」が揺らぐ。目次の段階から仕掛けが張り巡らされた40万部超のベストセラー。2015年度日本推理作家協会賞受賞作。

ドラマ放送情報

『連続ドラマW イノセント・デイズ』

『連続ドラマW イノセント・デイズ』(全6話)
3月18日(日)より、毎週日曜22:00~ WOWOWにて放送 第1話無料放送
出演:妻夫木聡、竹内結子、新井浩文、芳根京子/ともさかりえ、長谷川京子/石橋蓮司、余貴美子 ほか
原作:早見和真『イノセント・デイズ』(新潮文庫刊)
監督:石川 慶 脚本:後藤法子
佐々木慎一(妻夫木聡)は、幼なじみの田中幸乃(竹内結子)が死刑判決を受ける姿を法廷で見つめていた。彼女を救いたいという一心で、幸乃の姉や中学校時代の同級生、元交際相手の親友らに会って話を聞き、幸乃の壮絶な過去と絶望を知る。事件の真相に新たな光が差す一方で、死刑執行の日はひたひたと近づいてくる……。