“野に咲く花”はすぐ近所にも。春の風に誘われて出かけてみませんか?

暮らし

公開日:2018/3/17

『野に咲く花便利帳』(稲垣栄洋/主婦の友社)

 優しい日ざしが窓ガラス越しに揺れ、やわらかな風がふくらみ始めている。

 遠くの山では杉の枝先がふくらみ弾け、風に乗った花粉が街へと押し寄せる。

 目がかゆい。陽気に誘われて歩き出せば、道端には緑色の植物や色とりどりの小さな花が咲いていることに気づく――雑草。

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「雑草という草はないんですよ。どの草にも名前はあるんです。どの植物にも名前があってそれぞれ自分の好きな場所を選んで生を営んでいるんです」
 昭和天皇の有名なお言葉のとおり、“雑草”は植物学的分類ではない。「望まれていない場所に生えている植物」というのが“雑草”の定義だそうだ。

 ならば、足元のアスファルトの隙間から芽吹き花を咲かせた生命を“野に咲く花”と呼ぼう。でも、僕たちはまだその花の名前を知らない。
『野に咲く花便利帳』(稲垣栄洋/主婦の友社)は、そんな名も知らぬ草花の名前や謂れ、ふれあい方や楽しみ方を教えてくれる。

■知っているようで知らない野に咲く花の名前と由来

「自分の好きな場所を選んで生きている草花」――ぐっと来る本書のフレーズを胸に、まずは歩きだそう。
 近所を20分ほど散歩しただけで、いくつもの野の花と出会った。本書はA4サイズで持ち歩くにはやや大きいので、写真を撮ってから、自宅で調べてみることにする。

▲ハナニラ

 最初に目に留まったのは、お隣のマンションの前に咲いている白い花だ。本を開いて見てみると……あった。その名はハナニラ。葉の形と匂いが野菜のニラに似ていることがその名前の由来。漢字では「花韮」と書く。南・中央アメリカ原産の球根植物で、明治時代に観賞用に導入されたそうな。英名はスプリング・スターフラワー。星型に開いた5枚の花びらは、地上の星だ。

▲ホトケノザ

 次は紅紫の小さな花の群れ――ホトケノザ。「伸びた茎に丸い葉が向かい合ってつくさまが、仏様の座る蓮台を思わせる」ことから、ホトケノザ=仏の座と名付けられたそうだ。花の奥の甘い蜜はハチの好物。仏様の代わりにハチが蓮台にちょこんと乗った姿を撮影できたら悟りを開くことができるかも!?

▲タネツケバナ

 少し古びたアパートのブロック塀の根本に咲いていたのは、小指の先の半分もないくらいの小さな白い花――タネツケバナ。「田植え前、イネの種籾の発芽を促すために水につけておく時期に咲く」ことに由来するその名は、漢字で書くと「種付花」。クレソン系でピリリとした辛みがあるそうな。

 この他にもイモカタバミやノゲシ、おひたしにすると美味しいというハコベ、本書には掲載されていない花などが私の家の近所で見つかった。今まで気にも留めなかった“雑草”は、名前を知り、由来を知り、その特徴を知ることで、急に身近に感じるようになった。

■野に咲く花を飾る・撮るときのポイント

 自然のままの花も良いけれど、部屋に飾ってみたり、写真で記録したりするのも素敵だと、本書ではそのコツも紹介されている。

(本書74ページより)

★野の花を部屋に飾るコツ

(1)花を摘むのは、朝か夕方
 野の花は気温の高い日中は元気がないから、朝か夕方に摘もう。

(2)しおれた葉を“深水”で復活
 新聞紙にくるんで、花の下まで深く水に浸す。水圧の効果で吸水促進!

★写真を撮るときのコツ

(1)観察場所と撮影日時
 花だけでなく、付近の様子や日時も記録しよう。

(2)花の形全体がわかるように
 正面から見た花の形だけではなく、側面やガクの部分にも特徴がある。

(3)葉の特徴も大切
 花だけでは種類を特定できないこともある。葉は大きな手がかりになる。

 本書には248種の野草が、その特徴や由来、毒の有無、生態系への影響などの情報とともに季節ごとに分類・紹介されている。あなたの近所に今咲いている野の花の名前もわかるかもしれない。

 季節は間もなく桜の花見のシーズンになる。桜を見上げる夜は美しく華やか。でも、ひとり寂しさにうつむくとき、そこに咲く花があることに気づく。ああそうか、こんな自分にもきっと気づいてくれる人がいるに違いない。同じなんだ、草花も人も――望まれない場所に生まれた雑草に、あなたが心を寄せるとき、“野に咲く花”がまたひとつ、この世界に咲く。

文・写真=水陶マコト