「できるなら、あなたたちを惨殺したい」虐待を受けた子どもから親への手紙

社会

公開日:2018/3/25

『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media:編/dZERO)

『日本一短い「母」への手紙 一筆啓上』(福井県丸岡町/大巧社)を覚えているだろうか。子が親へ贈る美しい感謝の言葉の数々に多くの人が感動し、大ベストセラーとなって映画化までされた。しかし、世の中にはそんな美しい関係を築ける親子ばかりがいるわけではない。親への強い憎しみを抱いた子どもたちも存在するのだ。

 1997年、『日本一醜い親への手紙』(Create Media:編/メディアワークス)が刊行された。虐待された子どもたちによる“酷い親”への手紙が集められた本である。当時、児童虐待に関する本としては異例の10万部のヒットを飛ばし、苦しむ子どもたちの存在に気づきさえしなかった人たちの関心をも集めた。しかし、あれから20年。変わらず存在する虐待事件の数々。解決に至らない虐待という問題を今、改めて提起したいと再度、親に苦しむ子どもたちからの声を集めた本が出版された。『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media:編/dZERO)だ。

 本書に収められているのは公募により集められた100人の手紙。100通の手紙に綴られた言葉は、すべて親から虐められた子どもたちの生の声である。当時を思い出し「できるなら、あなたたちを惨殺したい」と手紙に記すのは、今は55歳の男性。「あなたを殺して、いいですか」と母親へ語りかけるのは27歳の女性。「あなたの訃報が来ることを一番の楽しみにしています」と書き締めたのは42歳になった男性だ。どれも手紙にしたためるにはあまりにも強烈な言葉に思えるかもしれない。しかし、彼や彼女たちが受けた苦しみはそんな言葉をも超越するような出来事ばかりなのだ。

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 酔って体を触ろうとする父親から助けるどころか、夫婦喧嘩の弱みを握るために自分を見放した母親とのかつての日々を綴る女性。家に連れてきた男友達に、母親が性的関係を求めたことで友達を失ってしまったり、「遺族は国のお金で一生楽できる」と子の死を想定して自衛隊に入隊させられそうになったりと人生を傷つけられてきた。

 いじめで不登校になると車で山奥へ無理やり連れられ、置き去りにされたという男性は成人し結婚を考えた女性がいたが、子どもを持ちたいという女性の望みを自らの虐待経験から受け入れることができず、別離の道へ。「こんなにも不幸な人生を送らせるなら、産まないで」と手紙で両親へ訴える。

 声をかけるだけで両親からビンタや蹴りを受けたという女性は幼少期に手を使わずに口で食べる“犬食い”を強要され、汚れると気絶するような冷たいシャワーで洗われた。そんな彼女は手紙の中でこんな思いを綴っている。「虐待された子は虐待した親を殺しても罪に問われない。そんな法律ができるなら、私は喜んで実行する。最後に笑うのは私……って、そんな間違った正義を振りかざさないよう、毎日毎日自分と戦っている」そして「人を怨まず、人を愛せる私になりたい」と。

 心に秘めた重い過去の苦しみを背負っていた被害者が真の思いを加害者へと宛てた手紙はダイレクトでストレートな内容ばかりだ。

 現代の子どもは、“2分の1成人式”や“花嫁の手紙”といった公の場で、本来なら個々で伝えるべき親への感謝という私的な言葉を表すことは少なくない。編著者が本書を出版しようという思いに至ったきっかけは、大ヒットした『日本一短い「母」への手紙 一筆啓上』の手紙の数々を読むにつけ感じた「なぜこの本の読者は子どもに感謝を求めるのだろう」という違和感だ。

「すべての親は子どもに最大の愛情を注ぎ、すべての行動は子を想ってのことである」といった理想と幻想が、時に多くの人の冷静な判断を鈍らせることがある。法で守られている親権のもとで親たちは子どもを守ることもできるが、自分に都合がいいように支配し傷つけることもできるのだ。

 もし、性的虐待が隣の家のおじさんからされたものだとしたら?

 殴る、蹴るといった身体的虐待が学校の先生から受けたものだったら?

 加害者が親であったばかりに救いの手を差し伸べてもらえなかった子どもたちの理不尽さはあまりにも耐えがたい。

 報道されるニュースでは多くの場合、虐待の現場の詳細までは伝えられない。実際に子どもたちの身に何が起きているのか。本来であれば愛情を注いでくれるはずの存在である親から被害を受けた子どもたちの生の声に本書で耳を傾け、その実態を知ることで、この深刻な事態をあらためて考えてみてはいいかがだろうか。

文=Chika Samon