『シェイプ・オブ・ウォーター』のフィッシュマンが魅力的な理由

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更新日:2018/4/16

『ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話』(ジーナ・マッキンタイヤー:著、ギレルモ・デル・トロ:序文、阿部清美:翻訳/DU BOOKS)

 第90回アカデミー賞で作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』は、政府機関で働く生まれつき声が出せない清掃員の女性と政府機関に送られてきた水陸両棲クリーチャー(フィッシュマン)との愛の物語だ。

 愛の美しさはもちろん魅力的だが、弱者のように見えて強者であり、強者のように見えて弱者であるキャラクターが自分と向き合いながらも関わっていく姿には心打たれるものがある。何気なく映画館に足を運んだ筆者だが、あまりにも心を揺さぶられるストーリーに思わず涙してしまった。

 魅力的な俳優陣に、うっとりしてしまう美しい映像・音楽など、ストーリー以外にも素晴らしさ満載の本作だが特に印象的だったのは一見不気味な水陸両棲のクリーチャーだ。はじめて観た時は想像以上に“魚”で、本当に2人が恋に落ちるのだろうか…と驚いてしまったが、見れば見るほど魚だなんて気にならず物語に引き込まれていった。

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『シェイプ・オブ・ウォーター』のメイキング本である『ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話』(ジーナ・マッキンタイヤー:著、阿部清美:翻訳/DU BOOKS)には、この印象的なクリーチャーが作られるまでの過程について書かれている。

 これまで数多くのクリーチャーを作ってきたギレルモ・デル・トロ監督だが、ストーリーに違和感なく溶け込み、観客にも受け入れられるクリーチャーを作り上げるまでには何度もデザインを書き直し試行錯誤を繰り返したという。

 本書でギレルモ監督は、あまりにもエイリアンっぽくなりすぎて、最初はうまくいかなかったと語り「これが『ヘルボーイ3』やモンスター映画なら十分にあり得たんだろうけれどね」と付け加えた。人間と恋に落ちるビジュアルという点ではこれまで培ってきた技術とはまた違ったものが必要だったことがうかがえる。

 そんなデル・トロ監督は助っ人として『アポカリプト』『ウルフマン』『メン・イン・ブラック3』などにクレジットされている特殊メイクアップアーティストのマイク・ヒル氏に頼みこんだ。

 ヒル氏は本書で「このクリーチャーが女性とキスするということを聞かされていたから、まずはそこから着手したんだ(中略)男性モデルたちの唇を参考に見てみたんだが、彼らの唇はあまりにも肉感的だった」と話している。

 その一文を読み、本書に掲載されている写真を改めて見返してみたところ、クリーチャー唇が他の部位よりも肉感的に人間らしく作られているのがわかる。そして、キスしたくなる唇を目指してクリーチャーを作り上げていった後、愛らしくもセクシーな瞳や、胸筋・腹筋などを強調した体を作り上げていった。それによりエイリアンのようだったクリーチャーが、人間にも魅力的なクリーチャーに変貌していったのだ。

 本書にはクリーチャーだけでなく、詳細な登場人物の設定や一度観ただけでは気付かないような仕掛け満載の美術についても細かく書かれている。まずは映画を観てもらい、その後本書を読んで映画館での感動をもう一度味わってほしい。『シェイプ・オブ・ウォーター』の世界が深く理解できるに違いないだろう。

文=舟崎泉美