映画館に涙の雨を降らせる、岡田麿里初監督作品『さよならの朝に約束の花をかざろう』の魅力

エンタメ

2018/3/29

『さよならの朝に約束の花をかざろう 公式設定資料集』(玄光社)

 2018年2月24日に劇場アニメ『さよならの朝に約束の花をかざろう』が公開された。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などのヒット作を手がけた脚本家・岡田麿里氏の初監督作品として注目される作品だ。試写会から評価は良好で、公開後も「涙腺崩壊しました」「アニメ映画で久しぶりの満足感」など、観客の満足度は非常に高い。そこで公開と同時に発売された『さよならの朝に約束の花をかざろう 公式設定資料集』(玄光社)でキャラクターや世界観などを参照しつつ、映画の魅力について迫ってみたい。

 まずはどのような物語かを確認しておこう。中世ヨーロッパに似た世界が舞台のファンタジーで、主人公の「マキア」は「イオルフ」と呼ばれる一族の少女である。イオルフは10代半ばで見た目の成長が止まるが、数百年の寿命を持つ「生ける伝説」であり、その長寿ゆえ「別れの一族」とも呼ばれていた。彼らは「ヒビオル」という布に日々の出来事を織り込みながら静かに暮らしていたが、メザーテという国の軍が突然、イオルフの里を襲撃。混乱の中、マキアは何とか脱出するが、ひとりぼっちになってしまう。あてどなく彷徨う彼女だったが、何者かに襲撃されたと思しき集落で、ただひとり生き残った赤ん坊と出会う。マキアはその子を「エリアル」と名づけ、育てることを決意するのだった──。

 やはり本作最大の見所となるのは、岡田麿里氏によるストーリー構成だろうか。拙いながらも母親として奮闘するマキアと、成長するごとに見せるエリアルのマキアに対する複雑な感情が、物語全編を通じての軸となっている。公式設定集によれば原案のマキアは「大人っぽい感じのイラスト」だったが、プロデューサーの「顎のラインがないぷにっとした感じがいい」という要望からより少女らしいイメージとなり、等身も少し下げられたという。これにより、「子供の状態」からスタートするマキアの子育て生活が視覚的にも感じやすくなっている。

 そして「息子」たるエリアルは、赤ん坊から成長していく姿が描かれる。姿の変わらないマキアに対してどんどん成長していくエリアルには当然、母親に対するさまざまな感情がその年代に応じて芽生えていく。キャラクターデザインもその年代ごとの感情を反映したものが用意され、デザイナーの石井百合子氏は「時代によって表情が変わる子だったので、マキアのように全編通しての整合性で悩むことはなかった」と語る。そしてこのふたりの関係に、イオルフの民の生き残りである「クリム」や「レイリア」などが関わってくることで、物語はよりドラマティックに彩られていくのだ。

 このマキアとエリアルの物語に対し「血は繋がっていなくとも家族になれる」とか「2人は紛れもなく親子だった」といった意見のほか「子供と一緒に観たかった」というものもあり、描かれたふたりの「絆」が多くの観客の心を揺り動かしたことは間違いないだろう。

 映画の終盤以降、私の周囲ではすすり泣きの声が多く聞こえてきた。「過剰な演出」との声もあるが、それでもこれだけの人たちの胸を打つ作品を作り出せることは、素直にすばらしいと思う。新海誠監督がいうように、初監督作でこれだけの質を見せた岡田麿里氏のポテンシャルは非常に高い。あまり次回作へのハードルを上げるのは気の毒かもしれないが、氏ならばその期待をさらに上回る快作を我々に見せつけてくれるはずだ。

文=木谷誠