SNSで一目置かれる方法! 元NHKアナウンサーに聞く個人発信のノウハウ

暮らし

公開日:2018/3/29

『SNSで一目置かれる 堀潤の伝える人になろう講座』(堀 潤/朝日新聞出版)

 インターネットやSNSを使って、普通の人が普通に情報を発信するようになってから、まだ10年かそこら。「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログが国会で取り沙汰されたように、一般の投稿がときに大きな力を持つようになってからもまだ日が浅い。

 そんなわけで、個人も社会もいまだ情報の扱い方については試行錯誤だ。世間に向けて情報を発信することは、ちょっと前までTVや新聞などマスコミの人たちだけのものだったから、それは仕方がないことだろう。でもそれならば、その道のプロに聞くのがよいのではないか。

 堀潤さんは元NHKアナウンサーのジャーナリストだ。いわば情報のプロである。堀さんが恵比寿新聞のタカハシケンジさんと始めたワークショップ「伝える人になろう講座」の内容をベースにしてできたのが本書『SNSで一目置かれる 堀潤の伝える人になろう講座』(堀 潤/朝日新聞出版)だ。

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 堀さんの「何かを伝えたい」人たちに向けたアドバイスは明快だ。何しろ堀さんが大切にしている基本は2つだけなのだ。

その1 大きい主語 < 小さい主語

 例えば、次の文章を読んでみて、あなたはどう思うだろうか。

「日本は右傾化している」
「最近の若者は草食化している」

 メディアでもよく見られる表現なので、「その通りだ」と思う人も多いだろう。しかし、自分や周囲はそうではなかったりもする。「日本」とは、「若者」とは一体、誰のことだろうか。

 これは、まさに主語が大きすぎる代表例。大きい主語は余計な誤解や対立を招き、物事の本質からどんどん離れていってしまう、のだという。

 震災の例で言えば、福島県の浜通りの住民約45万人すべての状況を代弁できるような発信などあるはずもない。より正確な情報を伝えるのならば、「浜通りで中華料理店を営んでいたAさんは〜」という個人レベルまで主語を小さくする。

「Aさんがお店を再開したなら訪ねてみようか」などというように、小さい主語で発信するメリットは、情報を受け取った人びとに何かしらのアクションを呼び起こさせることである。逆に言えば、大きい主語で語ることは、実は何も言っていないのと同じ。大きい主語は人を事実から遠ざけてしまうのだ。

 小さい主語=個人の事例を集めることで、大きい主語に惑わされず、本質を見つめることができる。これはさまざまな制約があるマスメディアにはなかなかできない、個人発信の強みである。

その2 オピニオン < ファクト

 もうひとつ大事なのは「オピニオン(意見)」よりも「ファクト(事実)」の発信を心がけようということ。

「自分の意見を持つな」ということではなく、オピニオンの元になるファクトをしっかり集めているかどうかが発信の説得力を左右するということである。

 例えば「今の世の中はおかしい!」と発信するより、「この20年間の実質賃金のグラフの推移をみると右肩下がりです。このままの状態が続くと、私たちはどんどん貧しくなる一方なので、こんな世の中はおかしいと思う」と実質賃金のグラフというファクトを入れる。これだけで十分に説得力が出てくる。

 もしも、何かしらの問題解決のために発信をしたいという場合は、しっかりファクトを伝えるとよい。

 この他にも効果的なストーリー展開やカメラワーク、インタビューの方法など、情報発信に役立つスキルが満載だ。テーマは決まってなくても何かを伝えたいという人にとって、優しく味方になってくれる本である。だが、伝える気がない人にもぜひとも読んでいただきたい。発信について知ることは、日々受け取る情報を判断するうえでとても参考になるからだ。

 また、本書には、NHKを退職してまで個人発信の道を選んだ堀さんの思いが端々にあふれている。情報とは情報発信とは何か、仕事や社会との関わり方についてまでも考えさせてくれるだろう。

文=高橋輝実